事故態様が争いになっている場合(過失)に必要な証拠を解説します①
事故が発生した際、特に「どのようにして事故が起きたのか」、いわゆる「事故態様」が争点となるケースは少なくありません。

例えば、信号の色はどちらが青だったのか、どちらの車両がどの程度の速度で走行していたのか、どちらが優先道路だったのかなど、事故の状況に関する当事者の言い分が食い違うことは珍しくありません。

このような場合、事故の真相を明らかにし、正当な権利を実現するためには、客観的な「証拠」に基づいて事故態様を正確に立証することが重要になります。私たち弁護士は、ご依頼者様のお話を伺うとともに、様々な証拠を・分析し、事故の全体像を把握していきます。

本記事では、交通事故で事故態様が争点となった場合に、どのような証拠が重要となり、それらをどのように収集・検討していくのかについて、弁護士の視点から詳しく解説していきたいと思います。

まず確認したい「交通事故証明書」

まず確認したい「交通事故証明書」
交通事故が発生すると、まず警察に届け出ることになりますが、その後、自動車安全運転センターから「交通事故証明書」という書類が発行されます。

これは、いつ、どこで、誰と誰の間で交通事故が発生したのか、という客観的な事実を公的に証明するものであり、保険金の請求手続きなどその後の様々な手続きの出発点となる重要な書類です。

ただし、ここで注意していただきたいのは、交通事故証明書はあくまで「事故が発生したこと」を証明するものであり、「どちらの当事者にどれだけの責任(過失)があるか」ということまで証明するものではない、という点です。事故の原因や過失割合については、この証明書だけでは判断できません。よく、甲乙の欄で過失が分かるという話があります。

たしかに、警察の判断で、より過失が大きいと判断される方を甲欄に記載するようです。もっとも、それは警察の判断であって、それが裁判に影響するということではありません。

なお、この交通事故証明書は、ご自身で自動車安全運転センターに申請して取り寄せることもできますが、多くの場合、ご加入の保険会社が迅速に取り寄せてくれますので、まずは保険会社にご確認いただくのがスムーズでしょう。私たち弁護士にご依頼いただいた際にも、通常は保険会社からコピーを入手することが多いです。

事故態様立証の柱となる「刑事事件の記録」

事故態様立証の柱となる「刑事事件の記録」
交通事故の態様を立証する上で、有力な証拠となる可能性があるのが、警察や検察が作成した「刑事事件の記録」です。

特に、事故態様について当事者間に争いがある場合には、この刑事記録を入手し、詳細に検討することが不可欠となります。刑事記録には、事故直後の現場の状況や、当事者・目撃者の供述など、事故態様を明らかにするための貴重な情報が豊富に含まれているからです。

刑事記録と一口に言っても、その中には様々な書類が含まれますが、特に重要なものとして「実況見分調書」と「供述調書」があります。これらの入手方法は、事故の状況(人身事故か物損事故か)や、刑事手続きの進捗状況(捜査中か、不起訴か、起訴されて裁判中か、判決確定後か)によって異なります。

(1)実況見分調書

イ 物損事故の場合

実況見分調書とは、事故発生後、警察官が事故現場の状況を詳細に調査し、その結果を記録した書類です。

事故車両の最終停止位置、ブレーキ痕の状況、道路の幅や見通し、信号機の状況などが、図面や写真とともに記載されており、事故態様を客観的に把握するための非常に重要な資料となります。

この実況見分調書の入手方法は、刑事手続きの進捗状況に応じて、主に以下のようになります。

ア 捜査中の場合

まず、警察が捜査を行っている段階、つまり事件が検察庁に送致される前や、検察庁で捜査が継続しているものの、まだ起訴・不起訴の処分が決まっていないような場合です。
残念ながら、この段階では、記録の開示はされません。

イ 物損事故の場合

車両の損傷のみで、お怪我をされた方がいない物損事故の場合、警察官は詳細な実況見分調書を作成せず、比較的簡単な図面(「物件事故報告書」などと呼ばれます)のみを作成しているのが一般的です。
この図面については、事故を管轄する警察署に対して、弁護士が弁護士会照会(23条照会)と呼ばれる手段で入手します。

なお、埼玉県では、物件事故報告書の事故態様欄は、黒塗りでだされるので(記事執筆現在)、何も情報が得られないことがあります。

あるいは民事訴訟を提起した後に、裁判所を通じて文書の送付を求める「文書送付嘱託」という手続き(民事訴訟法226条)を利用して取り寄せることになります。

ウ 人身事故で不起訴となった場合

お怪我をされた方がいる人身事故であったものの、加害者が起訴されず、「不起訴処分」となった場合、事件の記録は検察庁に保管されています。

この場合、実況見分調書を入手するためには、検察庁に対して弁護士法23条の2に基づく照会を行うか、あるいは、交通事故に関する損害賠償請求訴訟などが民事裁判所に係属しているのであれば、その裁判所に対して文書送付嘱託の申出をする方法が考えられます。

エ 起訴されて刑事裁判に係属中の場合

加害者が起訴され、刑事裁判が進行中の場合には、いくつかの入手方法があります。一つは、その刑事事件が係属している刑事裁判所に対し、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」(いわゆる「犯罪被害者保護法」)の23条に基づいて、記録の閲覧・謄写(コピー)を申請する方法です。

この法律では、第1回の公判期日後、その被告事件が終結するまでの間において、被害者ご本人やその法定代理人、そして依頼を受けた弁護士などが閲覧・謄写の申出をした場合には、原則としてこれを認めることとされています。
ただし、この段階で実況見分調書を入手することは少ないと思われます。

もう一つは、上記ウと同様に、民事裁判所を通じて文書送付嘱託の申出をする方法です。

オ 刑事事件が確定した後

刑事裁判で判決が下され、その判決が確定した後は、記録は再び検察庁で保管されます。

この場合、実況見分調書を入手する方法としては、検察庁に対し、刑事訴訟法53条に基づく閲覧を申請する方法、弁護士法23条の2による弁護士照会を行う方法、または民事裁判所を通じて文書送付嘱託の申出をする方法などが考えられます。

(2)供述調書

(2)供述調書

供述調書とは、事故の当事者や目撃者などが、警察官や検察官の取り調べに対し、事故の状況などについて述べた内容を記録した書類です。
事故当時の記憶が生々しい段階での供述が記載されているため、事故態様を明らかにする上で非常に重要な証拠となります。

供述調書の入手方法については、加害者が起訴されて刑事裁判に係属中の場合や、刑事事件が確定した後の場合は、基本的には前述の実況見分調書の入手方法(上記アの(エ)や(オ))と同様の手続きによることになります。

問題となるのは、人身事故ではあったものの、加害者が不起訴処分となった場合の供述調書の入手です。

検察庁は、平成19年1月19日付の法務省刑事局長依命通達(法務刑発第159号)により、不起訴事件記録中の供述調書については、原則として開示しないという立場をとりつつも、例外的に、以下の全ての要件を満たす場合には開示するのが相当であるとしています。

その要件とは、
① 民事裁判所から、不起訴事件記録中の特定の者の供述調書について文書送付嘱託がなされた場合であること。

② 当該供述調書の内容が、当該民事訴訟において争点となる重要な事項に関するものであって、かつ、その争点に関する立証が、他の証拠によってはできないか、または著しく困難であると認められること(代替証拠の不存在・困難性)。

③ 供述者が死亡、所在不明、心身の故障その他これらに準ずる事情により、民事訴訟においてその供述を求めることができないか、または著しく困難であると認められること(供述不能)。または、当該供述調書の内容が、供述者の民事裁判における証言内容と実質的に相反する場合であること。

④当該供述調書を開示することによって、捜査・公判への具体的な支障が生じたり、関係者の生命・身体の安全が害されたりするおそれがなく、かつ、関係者の名誉・プライバシーを不当に侵害するおそれがないと認められる場合であること。

これらの要件、特に②の代替証拠の不存在・困難性や③の供述不能の要件は非常に厳格に解釈・運用されており、実務上、この通達に基づいて供述調書が開示されるケースは多くはないというのが現状ではないかと思われます。

また、不起訴記録について、被害者やその代理人弁護士が検察庁に対して直接、閲覧・謄写を申請する場合であっても、供述調書については、「関係者の名誉・プライバシー保護や、将来の捜査・公判活動の円滑な遂行を著しく害するおそれが高い」との理由から、原則として閲覧を認めるべきではないとされています。
このように、不起訴となった事件の刑事記録、特に供述調書については入手が困難な状況があります。

その他の証拠については、こちらをご覧ください。この記事の続きになります。

交通事故を弁護士に依頼するメリット

交通事故を弁護士に依頼するメリット
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