
外資系企業などで働く高年収の会社員が交通事故に遭った場合の休業損害、業績連動賞与や株式報酬の扱い、成果主義の職場で減収がないときの逸失利益、高額所得者の基礎収入の争点を解説します。
高年収の会社員の交通事故で争点になりやすいこと

外資系の金融機関やコンサルティング会社、IT企業などで働く方の中には、年収が2,000万円、3,000万円を超える方も少なくありません。基礎収入が高いほど、休業損害や逸失利益の金額は大きくなります。
その一方で、高年収の会社員の収入は、基本給のほかに業績連動の賞与や株式報酬などが大きな割合を占めることが多く、どこまでを基礎収入に含めるかが争点になります。また、成果主義の職場では、事故による一時的なパフォーマンスの低下が、評価や雇用の継続そのものに影響することもあります。
相手方保険会社も、賠償額が大きくなる事案では基礎収入や喪失率を厳しく争ってきます。資料に基づいた丁寧な主張が欠かせません。
休業損害:基本給だけで計算させない

給与所得者の休業損害は、次の式で計算します。
休業損害 = 1日あたりの基礎収入 × 休業日数
1日あたりの基礎収入は、事故前3か月間の総支給額を基に算定するのが一般的です。しかし、年俸制で年1回の賞与の比重が大きい場合、3か月分の給与だけでは実態を反映しません。事故前年の源泉徴収票の総支給額を基に計算するよう求めることを検討します。
業績連動賞与の減額
事故による欠勤や業務量の減少によって、個人評価に連動する賞与が減った場合は、その差額を休業損害として請求できます。勤務先に賞与減額証明書を作成してもらうのが基本ですが、外資系企業では日本の書式に慣れていないこともあります。賞与の算定方法がわかる社内規程や評価制度の資料、事故前後の評価結果の通知などをあわせて準備しましょう。
有給休暇・在宅勤務
通院や療養のために有給休暇を使った日も休業日数に含まれます。また、在宅勤務で無理をして働き続けた場合は、休業損害としては計上しにくいものの、後の逸失利益の判断で重要な事情になります。業務時間の短縮や担当案件の減少を、記録として残しておきましょう。
株式報酬(RSU・ストックオプション)は基礎収入に含まれるか

外資系企業などでは、RSU(譲渡制限付株式ユニット)やストックオプションなどの株式報酬が、年収の相当部分を占めることがあります。これらが休業損害や逸失利益の基礎収入に含まれるかについては、確立した基準があるわけではなく、個別の事案ごとに争われる論点です。
基礎収入に含めることを主張する場合には、毎年継続的に付与されていたこと、労務の対価として付与されていること、給与所得として課税されていることなどを示すことが考えられます。付与通知書、権利確定(ベスティング)のスケジュール、源泉徴収票や給与明細への記載などを整理しておきましょう。
また、事故による休職や退職のために、権利確定前の株式報酬が失効した場合には、その価値を損害として主張することも検討します。
逸失利益:高額な基礎収入をどう認めさせるか

後遺障害が残った場合、将来の収入減少を逸失利益として請求します。
逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
基礎収入は、原則として事故前の現実の収入です。参考までに、年収3,000万円の40歳の会社員について、法定利率3%のライプニッツ係数で試算すると次のとおりです(喪失率・期間は目安の例です)。
| 等級(喪失率・期間の例) | 逸失利益の試算 |
| 第14級(5%・5年) | 約687万円 |
| 第12級(14%・10年) | 約3,583万円 |
| 第9級(35%・67歳までの27年) | 約1億9,243万円 |
「今の年収が67歳まで続くとは限らない」という反論
高額所得者の事案では、相手方保険会社から「現在の高収入は一時的なものであり、67歳まで同じ水準が続く蓋然性はない」と主張されることがよくあります。実際にも、一定の年齢以降は基礎収入を減らして計算する例があります。
これに対しては、事故前数年間の収入の推移、職位や専門性、業界での経歴、転職しても同程度の収入を得られる市場価値などを示して、高い収入が継続する蓋然性を主張します。転職のたびに年収が上がってきた経歴があれば、それも有力な事情になります。
成果主義の職場で「減収なし」と言われた場合

後遺障害が残っても、事故後しばらくは年俸が変わらないこともあります。最高裁は、後遺障害があっても現実の減収がない場合には原則として逸失利益は認められないとする一方で(最判昭和42年11月10日民集21巻9号2352頁)、減収がないことが本人の特別の努力によるものである場合や、昇給・昇任・転職などで不利益を受けるおそれがある場合など、特段の事情があれば逸失利益を認める余地があるとしています(最判昭和56年12月22日民集35巻9号1350頁)。
外資系企業などの成果主義の職場では、次のような事情が特段の事情として問題になります。
- 痛みや集中力の低下を、長時間労働で補って成果を維持している場合
- 評価が下がり、翌年以降の年俸や賞与の減額、昇格の見送りが見込まれる場合
- 業績不振を理由とする退職勧奨や解雇のリスクが高まっている場合
- 転職が一般的な業界であり、後遺障害が転職で不利に働くと見込まれる場合
事故前後の評価結果、上司とのやり取り、担当案件の変化などを具体的に整理し、陳述書などで裏付けることが大切です。
事故が原因で退職・転職した場合

後遺症のために従来の業務を続けられず、退職や年収の低い会社への転職を余儀なくされた場合、事故前の収入と転職後の収入の差を基に、逸失利益を主張することが考えられます。退職の経緯が事故による症状と関係していることを、医師の意見や会社とのやり取りで示す必要があります。
労災保険との関係

通勤途中や業務中の事故であれば、労災保険を利用できます。労災保険の休業特別支給金(給付基礎日額の20%)は損害賠償額から控除されないと解されています。
ただし、労災保険の給付は給付基礎日額を基に計算され、療養が長期に及ぶ場合には年齢階層ごとの上限額が適用されることもあるため、高年収の方ほど、労災保険だけでは損害の一部しか補てんされないことになります。不足分は加害者に請求します。
相手方保険会社の典型的な主張と対応

「休業損害は事故前3か月の給与で計算します」
賞与の比重が大きい年俸制では、事故前年の総支給額を基に計算するよう求めます。
「株式報酬は収入に含まれません」
継続的な付与実績や、労務の対価としての性質、課税の扱いを資料で示して争います。
「高額な年収は将来も続くとは限りません」
収入の推移、専門性、転職市場での評価を示し、高収入が続く蓋然性を具体的に主張します。
よくある質問

Q 外資系の会社で、休業損害証明書の作成を嫌がられました。
A 書式の記載方法がわからないことが原因の場合もあります。人事部門に記載例を示して依頼するほか、給与明細や源泉徴収票、勤怠記録などで代わりに立証することも可能です。
Q 賠償額が大きいので、相手の保険で足りるか心配です。
A 相手方が任意保険の対人賠償を無制限で契約していれば、原則として保険から支払われます。任意保険の内容を早めに確認し、不足する場合にはご自身の人身傷害保険の利用も検討しましょう。
事故直後から集めておきたい資料

高年収の会社員の事案では、基礎収入の立証に必要な資料が多く、しかも時間が経つと入手しにくくなるものもあります。事故直後から、次の資料を意識して集めておきましょう。
- 事故前3年分程度の源泉徴収票、給与明細、年俸の通知書
- 賞与の算定方法がわかる社内規程、事故前後の評価結果の通知
- 株式報酬の付与通知書、権利確定のスケジュール、失効した場合はその通知
- 勤怠記録、在宅勤務の稼働記録、担当案件の変化がわかる資料
- (退職・転職した場合)退職の経緯がわかる資料、転職後の雇用契約書
英語の資料しかない場合でも、証拠として提出することは可能です。必要に応じて訳文を付けて提出します。
弁護士に依頼するメリット

複雑な報酬体系を損害として構成できる
年俸制、業績連動賞与、株式報酬などが組み合わさった報酬体系は、保険会社の定型的な計算方法では正しく評価されません。弁護士が報酬の仕組みを分析し、実態に合った基礎収入を主張します。
弁護士基準で慰謝料を請求できる
保険会社が最初に提示する慰謝料は、自賠責保険の基準や保険会社独自の基準で計算されていることが多く、裁判で認められる水準(弁護士基準)より低いのが一般的です。弁護士が交渉することで、弁護士基準を前提とした交渉が可能になります。
弁護士費用特約を使える場合が多い
ご自身やご家族の自動車保険、火災保険などに弁護士費用特約が付いていれば、弁護士費用の多くを保険でまかなえます。特約を使っても、保険の等級が下がることは通常ありません。
まとめ

高年収の会社員の交通事故では、基本給だけでなく、業績連動の賞与や株式報酬を含めた実際の収入を基に請求することが重要です。成果主義の職場では、減収がなくても評価や雇用への影響を具体的に示すことで、逸失利益を主張できる場合があります。
基礎収入が高い分、主張の仕方によって賠償額が数千万円単位で変わることもあります。示談の前に、弁護士に相談することをおすすめします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 申 景秀
交通事故
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属。
獨協大学法科大学院を卒業し、司法試験を70番台という高順位で合格。札幌での司法修習を経て、現在は交通事故案件を中心に多数の損害賠償請求に対応している。後遺障害等級認定や保険会社との示談交渉を含む実務に精通し、緻密な法的思考に基づいた立証に注力。被害者の適正な賠償実現のため、専門知識を活かした迅速な解決を追求している。








