主   文

1 被告らは,原告X1に対し,各自7741万9306円及びこれに対する平成17年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告X2に対し,各自1978万4146円及びこれに対する平成17年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは,原告X3に対し,各自1978万4146円及びこれに対する平成17年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告らの,その余を被告らの負担とする。
6 この判決は,原告ら勝訴の部分に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
1 被告らは,原告X1(以下「原告X1」という。)に対し,各自9860万8620円及びこれに対する平成17年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告X2(以下「原告X2」という。)に対し,各自2699万1192円及びこれに対する平成17年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは,原告X3(以下「原告X3」といい,原告X1及び原告X2と併せて「原告ら」という。)に対し,各自2699万1192円及びこれに対する平成17年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 仮執行の宣言
第2 主張
1 請求原因
(1) 交通事故の発生
A(以下「A」という。)は,平成17年7月11日午後0時0分ころ,東京都新宿区神楽坂2丁目12番地の道路の路側帯を歩行中に,被告Y1(以下「被告Y1」という。)が運転する普通貨物自動車(以下「被告車」という。)に衝突され,死亡した(以下,この交通事故を「本件事故」という。)。
(2) 被告らの責任
ア 被告Y1は,被告車を本件事故の発生した現場付近に駐車させた後に発進させるに当たり,被告車はオートマチック車であったから,アクセルペダルやギアチェンジレバー等を的確に操作すべき注意義務を負っていたのに,これを怠り,アクセルペダルを踏んだままギアを入れ替える操作をしたため,被告車を急発進させた上で暴走させ,本件事故を発生させたもので,本件事故の発生につき過失があり,A及び原告らに生じた損害について,民法709条ないし711条の規定に基づき,賠償する責任を負う。
イ 被告株式会社Y2(以下「被告会社」という。)は,被告車の所有者であり,A及び原告らに生じた損害について,自動車損害賠償保障法3条本文の規定に基づき,賠償する責任を負う。
ウ 被告Y3組合(以下「被告組合」といい,被告Y1及び被告会社と併せて「被告ら」という。)は,被告Y1が組合員である事業協同組合であり,その営業課長であるB(以下「B」という。)を通して被告車を管理し,被告Y1は,被告組合から仕事の紹介を受けて,大手運送会社のいわゆる孫請けとして運送業を営んでいた。被告組合は,被告組合のための仕事として,被告Y1に対して特定の仕事を頼んだり,被告組合の関連会社が所有し被告組合において管理している自動車を使用して特定の仕事をさせたりしていたもので,被告Y1との間に間接的な業務の指揮監督関係があり,被告Y1においては専属的な従属関係にあったのであるから,被告組合には被告車につき運行支配及び運行利益があったもので,被告組合は,自動車損害賠償保障法3条本文に規定する「自己のために自動車を運行の用に供する者」に当たり,いずれにせよ,被告Y1は被告組合の業務の執行中である運送の作業中に本件事故を発生させたから,被告組合は,A及び原告らに生じた損害について,同規定に基づき,賠償する責任を負う。
(3) Aの弁護士費用以外の損害 合計1億1831万0700円
ア 逸失利益 8831万0700円
Aは,本件事故が発生した当時に,34歳で,我が国における4大監査法人の一つに数えられるC監査法人に勤務していたところ,平成7年にD大学法学部を卒業し,株式会社Eに約5年勤務した後,平成12年9月から外資系の広報会社であるFに勤務し,平成14年1月ころから上記監査法人(当時の名称はC’監査法人)に勤務し始めて企画,広報の業務に従事し,平成17年に組織変更に関連して理事長直轄の部署である広報室に異動し,これに伴って,弁護士資格を取得すべくかねて準備をしていた同年の法科大学院入学のための試験を受けることを見合わせたもので,選挙情勢にも詳しく,市議会議員選挙に立候補した友人の選挙運動をしたことがあるほか,政治家となることも志していた等の経歴や勤務状況等に照らし,同監査法人における定年である60歳に達する平成42年(2030年)までの間に得ることができたであろう昇格を含めた年収及び退職金の金額並びにその後67歳に達する平成50年(2038年)までの間の大学を卒業した男性の労働者の対応する年齢の平均年収額は,別紙「亡A給与試算表」の「年収見込額」欄に各記載のとおりである。そうすると,Aの逸失利益は,上記の各金額に上記別紙記載の年5分の割合による中間利息の控除に関するライプニッツ係数を乗じた金額の合計1億4718万4500円から,平成14年8月に原告X1と婚姻をし,平成18年には子をもうけることを考えており,これに伴って原告X1は当時の勤務先を辞することとなった蓋然性が高く,両親であり本件事故の発生した当時に60歳を超えていた原告X2及び原告X3を含め,扶養をする必要が生じたであろうこと等の事情を踏まえ,生活費として4割を控除すると,上記の金額となる。
仮に本件事故が発生する前のAの年収の金額である726万9524円を基礎として次の計算により逸失利益の金額を算定するのであれば,原告らは,予備的に,上記の主張額との差額に相当する金額を慰謝料の金額に加算して求める。
726万9524円×16.00254920(就労可能な67歳までの33年についての年5分の割合による中間利息の控除に関するライプニッツ係数)
×(1-0.4)
=6979万8549円
イ 慰謝料 3000万円
アに記載した本件事故の発生に至るまでのAの経歴,勤務状況,志望,生活の状況等及びこれらからうかがわれるAの無念の情のほか,本件事故は,オートマチック車の運転に慣れていなかった被告Y1が,甚だ軽率にもその運転に当たり,本件事故の発生した現場は狭隘な一方通行の道路で前方に多数の歩行者がいたのであるから,被告車を発進させるに当たってはとりわけ慎重な運転操作が必要とされていたにもかかわらず,後方の自動車の運転者から発進するように言われ,気がせいて,アクセルペダルを踏んだままギアを入れ替える操作をしたため,被告車を急発進させてAにその後方から衝突させ,Aを被告車の底部に巻き込んで引きずるなどした凄惨なものであり,その過失の内容は,運転者としての最も初歩的かつ基本的な注意義務を怠ったもので,被告Y1には他に10回の交通違反歴があり,平成17年3月には運転免許の効力を停止する行政処分を受けていることも考慮すると,極めて悪質というべきであること,他方,Aには落ち度は全くないこと,被告組合は本件事故につき責任を負うことを否定する等してきており,その対応は著しく不誠実であること等の本件における特別の事情が,加算事由として考慮されるべきである。
(4) Aに関する相続関係
原告X1は,Aの妻であり,原告X2及び原告X3は,Aの両親である。
(5) 原告X1の弁護士費用以外の損害 合計1077万0400円
ア 葬儀関係費 254万8141円
イ 交通費 15万7190円
原告X1は,Aの搬送された病院及び関係諸機関への交通費のほか,犯罪被害者の遺族の権利として被告Y1に対する刑事被告事件の公判手続を傍聴するための交通費及び検察庁への交通費等として,上記の金額を負担した。
ウ 固定電話代 8万7572円
原告X1は,本件事故の発生した後,不用意に加害者側からの電話に対応して精神的に動揺を来す可能性や自宅における一人暮らしの不安感を考慮して,固定電話に相手方の電話番号を表示する装置を設置し,このために2000円を負担したほか,平成17年8月から平成19年1月までの間に,病院,関係諸機関及び親族への連絡等のために,本件事故の発生する前に毎月負担していた約2000円を超えて,8万5572円を負担した。
エ 携帯電話代 2万7537円
原告X1は,本件事故の発生した後,平成17年7月から平成18年2月までの間に,病院,関係諸機関及び親族への連絡等のために,本件事故の発生する前に負担していた3129円を超えて,上記の金額を負担した。
オ 雑費 4万9469円
原告X1は,裁判に関する雑費その他本件に関係のある費用として,上記の金額を負担した。
カ 本件事故による直接の精神的苦痛についての慰謝料 500万円
原告X1は,短期大学在学中の平成4年4月ころに,当時大学生であったAといわゆるサークル活動を通じて知り合い,交際を続けて,平成14年8月に婚姻をし,当時従事していたG信用金庫の秘書業務をそろそろ辞して子をもうけたいと相談していた折に,本件事故が発生したものであって,その後,原告X1は,失意の余り精神状態が不安定になって,その母が140日にわたり通って付き添う等の状況となった。原告X1は,本件事故が発生した2週間後に,無理を押して出勤したが,心因反応(心的外傷性悲嘆反応)及び抑うつ状態を発するに至ったこと等により,平成18年12月28日にやむなく退職した。以上のほか,原告X1は,被告Y1に対する刑事被告事件の公判期日において熱心に傍聴するとともに被害者であるAの遺族として証言し,有罪判決に基づき刑事施設に収容された被告Y1について行われた仮釈放を許すか否かの審理に当たりこれを許すべきではない旨の意見を述べる等しており,原告X1の被害感情は峻烈であり,Aの命日近くに上記のサークルに所属していた多数の仲間の墓参を受けるなどする度に精神的なショックを受け続けているものであって,原告X1が本件事故により受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては,上記の金額をもって相当というべきである。
犯罪被害者の遺族が受ける上記のような精神の健康等に関する被害については,平成20年の今日においては,特殊なものではなく,これらを交通事故との間に相当因果関係がないものとするのは,経験則に反するというべきであり,このことは,次のキからシまでに述べる原告X1に係る損害及び(6)に述べる原告X2及び原告X3に係る損害についても同様である。
キ 休業損害 48万2891円
原告X1は,平成17年において387万3754円の収入を得ていたところ,Aの葬儀,被告Y1に対する刑事被告事件の公判手続の傍聴,カに述べた疾病の治療等のため,同年7月11日から平成18年12月28日までの間に45.5日休業し,これよる休業損害は,上記の金額となる。
ク 治療費 7万9655円
原告X1は,カに述べた疾病の治療のため,ハートクリニック,東京医科歯科大学医学部附属病院等に通院し,投薬料を含め,上記の金額を負担した。
ケ 通院交通費 6万0480円
原告X1は,クに述べた治療に関する交通費として,平成18年2月4日から同年11月13日までの間の3回にわたるハートクリニックへの通院につき合計900円を,同年2月9日から同年8月ころまでの間に週1回程度した東京医科歯科大学医学部附属病院への通院につき合計5万9580円を負担した。
コ 付添介護費 49万0280円
カに述べた原告X1の母の140日にわたる付添いについては,1日当たり3000円として,42万円に相当し,付添いに要した交通費を合わせて,上記の金額となる。
サ 疾病に関する慰謝料 178万円
原告X1は,カに述べた疾病について,平成19年5月1日までの間に,最低660日は自宅における介護及び通院を要する状態にあったもので,上記の疾病に関して原告X1が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては,上記の金額をもって相当というべきである。
シ その他雑費 7185円
原告X1は,病院等への手みやげ及び文書料として,上記の金額を負担した。
(6) 原告X2及び原告X3の弁護士費用以外の損害 合計963万7996円
ア 葬儀関係費 合計48万0238円
イ 墓地,墓石代等 合計400万4735円
これらは,社会通念上相当と認められる限度においては,賠償義務の対象となるものである。
仮に上記の金額が損害として認められないのであれば,これを慰謝料の金額を増額する事由として主張する。
ウ 交通費 合計5万3840円
原告X2及び原告X3は,Aの搬送された病院及び関係諸機関への交通費のほか,犯罪被害者の遺族の権利として被告Y1に対する刑事被告事件の公判手続を傍聴するための交通費及び検察庁への交通費等として,上記の金額を負担した。
エ 通信費 合計7万2333円
原告X2及び原告X3は,本件事故の発生した後,平成17年8月から平成18年11月までの間に,病院,関係諸機関及び親族への連絡等のために,本件事故の発生する前の平成17年7月に負担していた4427円を超えて,上記の金額を負担した。
オ 雑費 合計2万6850円
原告X2及び原告X3は,本件事故の発生した後,連絡用にファクシミリを購入して,その代金として2万5500円を負担し,また,Aに係る戸籍謄本を入手するための費用として1350円を負担した。
カ 慰謝料 合計500万円
Aは,原告X2及び原告X3の唯一の子であり,原告X2及び原告X3は,Aを愛し,その成長等を楽しみ(ママ)していたもので,また,高齢になるにつれてAに対して扶養を求め得る権利者となった可能性が高いところ,本件事故の発生により,筆舌に尽くし難いほど落胆し,原告X3においては,原告X2が付き添っていないと100メートルも歩けないような状況になる等したものであって,原告X2及び原告X3が本件事故により受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては,少なくとも上記の金額をもって相当というべきである。
(7) 弁護士費用
原告X1関係 896万4420円
原告X2及び原告X3関係 各245万3744円
(8) よって,いずれも民法709条ないし711条及び自動車損害賠償保障法3条本文の規定に基づき,被告らに対し,各自,原告X1は,相続により取得したAの損害賠償債権に係る(3)記載の金額の3分の2に相当する7887万3800円,(5)記載の1077万0400円及び(7)記載の金額のうち原告X1に係る896万4420円の合計9860万8620円並びにこれに対する不法行為の日である本件事故の発生した平成17年7月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の,原告X2及び原告X3は,それぞれ,相続により取得したAの損害賠償債権に係る(3)記載の金額の6分の1に相当する1971万8450円,(6)記載の963万7996円の2分の1に相当する481万8998円並びに(7)記載の金額のうち原告X2及び原告X3に係る245万3744円の合計2699万1192円並びにこれに対する上記の平成17年7月11日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)について
認める。
(2) 請求原因(2)について
ア 同ア及びイの事実は認め,主張は争わない。
イ 同ウの事実のうち,被告組合は被告Y1を組合員とする事業協同組合でその営業課長であるBを通して被告車を管理し,被告Y1は被告組合から仕事の紹介を受けて大手運送会社のいわゆる孫請けとして運送業を営んでいたことは認めるが,その余は否認し,主張は争う。
(3) 請求原因(3)について
ア 同アの事実のうち,原告X1はAの妻であり,原告X2及び原告X3はAの両親であること,Aの逸失利益の金額の算定に当たり生活費としての控除の割合を4割とすることは認めるが,その余は否認する。原告らが主張するC監査法人におけるAの将来の活躍については,抽象的な可能性であって,Aの本件事故が発生する前の学歴,職歴,職種内容,資格の有無等の事情を考慮しても,原告らが主張するような金額の収入を得ることができたであろうことについて高度の蓋然性があるとまではいい難い。
イ 同イの事実のうち,本件事故は,被告Y1がオートマチック車である被告車を運転中にアクセルペダルを踏んだままギアを入れ替える操作をしたため被告車を急発進させてAに衝突させたもので,被告Y1の一方的な過失により発生したものであることは認め,慰謝料の金額については2800万円の限度で認めるが,その余の事実は否認し,主張は争う。本件事故の態様は,飲酒運転や無免許運転等と比較して極めて悪質であるとまではいえず,被告組合の責任についても,これが生ずるとは一概にはいえないところであって,本件事故に関する被告組合の対応が原告らの主張するようなものであったとしても,慰謝料を上記の金額を超えて認める事由に当たるとはいえない。
(4) 請求原因(4)について
認める。
(5) 請求原因(5)について
同アの事実は,領収書の存在する181万2240円の限度で認め,その余は否認し,イの事実は,平成17年7月11日及び同月12日に係る7万2300円の限度で認め,その余は否認し,ウからオまでの事実は否認し,カの事実は,原告X1がAの妻であること及び本件事故が発生したことは認め,その余は否認し,キからシまでの事実は否認し,いずれも主張は争う。カに主張されている慰謝料については,Aについての慰謝料2800万円に包含されるものというべきである。また,ウ,エ及びキからシまでに主張されている事項については,本件事故との間に相当因果関係が存在しない。
(6) 請求原因(6)について
同ア及びイの事実は否認し,ウの事実は知らず,エからオまでの事実は否認し,カの事実は,Aが原告X2及び原告X3の唯一の子であることは認め,その余は否認し,いずれも主張は争う。イに主張されている墓地,墓石代等については,本件事故がなくてもいずれ支出を要した費用である。ウに主張されている交通費については,仮にその主張に添う証拠があったとしても,平成17年7月11日及び同月12日に係る分のみを認める。カに主張されている慰謝料については,Aについての慰謝料2800万円に包含されるものというべきである。
(7) 請求原因(7)について
争う。
第3 判断
1 本件事故の発生及び被告の責任について(請求原因(1)及び(2)関係)
請求原因(1)の事実並びに同(2)ア及びイの事実並びに被告Y1及び被告会社が原告らに対してその主張するように損害賠償責任を負うことは,当事者間に争いがない。
また,請求原因(2)ウの事実のうち,被告組合は,被告Y1を組合員とする事業協同組合で,その営業課長であるBを通して被告車を管理し,被告Y1は,被告組合から仕事の紹介を受けて大手運送会社のいわゆる孫請けとして運送業を営んでいたことは,当事者間に争いがないところ,証拠(甲5,6,14ないし16)及び弁論の全趣旨によれば,被告組合は,組合員のためにする貨物の共同荷受及び共同配車等を事業とする事業協同組合であること,被告Y1は,平成17年6月末ころ,それまで使用していた自動車が老朽化したことから,これにつきいわゆる廃車の手続をとるとともに運送業を廃することを考え,被告組合の営業課長に対してその旨を伝えたところ,同人は,被告組合において人手が不足している事情があったため,被告組合の自動車を貸すのでもう少し続けてほしい旨述べ,他の営業課長であったBに対し,Bの管理している自動車を被告Y1に貸してほしい旨依頼したこと,被告Y1は,当初は別の自動車を借りていたが,本件事故の前日である同年7月10日に,Bからその管理していた被告車を借り,荷物の配送の業務に従事していた際に,本件事故を発生させたことが認められ,以上の事実によれば,被告組合は,原告らに対し,自動車損害賠償保障法3条本文の規定に基づき,損害賠償責任を負うものというべきである。
2 Aの弁護士費用以外の損害について(請求原因(3)関係)
(1) 請求原因(3)アの事実のうち,原告X1はAの妻であり,原告X2及び原告X3はAの両親であることは,当事者間に争いがなく,証拠(甲7ないし9,10の1ないし3,12,13,16,23,34,35,37ないし39)によれば,Aは,昭和46年○月○○日に生まれ,本件事故の発生した当時に34歳であったこと,Aは,平成7年にD大学法学部を卒業し,株式会社Eに約5年勤務して広報関係の業務に従事した後,平成12年9月から外資系の広報会社であるFに勤務し,平成14年1月ころから,我が国における大規模な監査法人の一つであるC’監査法人(平成16年にC監査法人と合併)に勤務し始めて,企画,広報等の業務に従事していたところ,平成14年8月に原告X1と婚姻をし,本件事故が発生する前年である平成16年には給与・賞与として726万9524円の収入を得ており,平成17年に組織変更に関連して理事長の事実上の直轄部署である広報室に異動し,これに伴って,弁護士資格を取得すべくかねて準備をしていた同年の法科大学院入学のための試験を受けることを見合わせたもので,同監査法人内においてその能力等につき評価を得ていたほか,選挙情勢にも詳しく,三鷹市議会議員選挙に立候補した友人の選挙運動をしたことがあって,原告X1に対して自らも公職に立候補する考えがあることを述べたこともあることが認められる。
その上で,原告らは,Aにあっては本件事故に遭遇しなければ別紙「亡A給与試算表」の「年収見込額」欄に各記載のとおりの収入を得ることが可能であった旨主張し,これを裏付ける証拠として甲17ないし23を提出するが,このうち上記の監査法人の人事部長の陳述書である甲23においては,上記別紙のうちAの退職見込み時期までの収入に係る欄は本件における原告ら訴訟代理人の依頼を受けてAの将来の収入についてのシミュレーションとして作成したものであり,ある程度の蓋然性はあるとの判断を前提とするものの,実際にはどうなったかについては分からないところがあり,昇格については陳述書作成者の期待も含まれ,「あくまでシミュレーションで,厳密に全ての金額について,絶対の根拠をあげる事はできませんし,当法人としてもAが必ずこの金額をもらえたということは保証できません。」としているところであって,先に認定したとおり,Aは上記の監査法人において勤務を開始する前に転職をしており,弁護士資格の取得を目指していたことや,公職に立候補する考えを述べていたこと等の事情も考慮すると,上記の証拠をもっても,Aが将来上記の監査法人において上記別紙記載のとおりの金額の収入を得たであろうことについて,高度の蓋然性があるとまでいうことは困難である。
そうすると,Aの逸失利益については,本件事故が発生する前年である平成16年の収入である726万9524円を基礎に,生活費の控除の割合については,当事者間に争いのない4割を採用して,次の計算により,6979万8549円と認めるのが相当というべきである。
726万9524円×16.00254920(就労可能な67歳までの33年についての年5分の割合による中間利息の控除に関するライプニッツ係数)
×(1-0.4)
=6979万8549円
なお,原告らは,上記の金額とその主張に係る逸失利益の金額との差額について,これを慰謝料の金額に加算して求める旨を主張するが,逸失利益として主張される金額につき立証上の問題があった場合に,認定された金額との差額を慰謝料として当然に認めることはできないものというべきである。
(2) 請求原因(3)イの事実のうち,本件事故は,被告Y1がオートマチック車である被告車を運転中にアクセルペダルを踏んだままギアを入れ替える操作をしたため被告車を急発進させてAに衝突させたもので,被告Y1の一方的な過失により発生したものであることは,当事者間に争いがなく,証拠(甲1,2,11,15,16)によれば,被告Y1は,オートマチック車の運転に慣れていなかったところ,本件事故の発生した現場の道路は幅員約2.7メートルの車道の左側に幅員約0.95メートルの路側帯設けられた一方通行のもので,被告車をいったん駐車させた前方には少なくともAを含め3名の歩行者がいたにもかかわらず,後方の自動車の運転者から発進するように言われ,気がせいて,アクセルペダルを踏んだままギアを入れ替える操作をしたため,被告車を急発進させ,その後も動揺してアクセルペダルを踏み続けたまま被告車を走行させて,前方約9.8メートルの地点にいた歩行者に時速約25キロメートルで衝突させた後,更に約14メートル前方の路側帯内の地点にいたAほか1名にその後方から時速約45キロメートルで衝突させて,Aを被告車の底部に巻き込んでれき圧しつつ引きずるなどしたものであること,被告Y1には,平成17年6月までの間に10回の交通違反歴があり,同年3月には運転免許の効力を停止する行政処分も受けていることが認められ,被告Y1に対する刑事被告事件の第1審判決(甲1)において述べられているように,被告Y1については,オートマチック車の運転者にとって最も初歩的かつ基本的な注意義務を怠ったもので,その運転に臨む態度にはいわゆる職業運転者として甚だ軽率なものがあり,その過失は極めて重大であって,厳しい非難に値するというべきである。
そして,(1)に認定したAの身上に関する事実に加え,証拠(甲8,16,37ないし39)によれば,Aは,大学在学中の平成4年4月ころに短期大学在学中の原告X1といわゆるサークル活動を通じて知り合った後,上記のとおり平成14年8月に原告X1と婚姻をして,円満な家庭生活を送り,平成18年には子をもうけることを考えていたところであり,また,両親である原告X2及び原告X3との間においても,その唯一の子として十分な愛情を受けて育てられ,原告X1と婚姻をした後も良好な関係にあったことが認められ,これらの事情からうかがわれるAの無念の情については,これを察するに余りあるものというべきである。
これらの事情を勘案し,本件事故によりAが受けた精神的苦痛に対する慰謝料の金額としては,3000万円をもって相当と認める。
なお,原告らは,本件事故が発生した後の被告組合の対応の問題点につき指摘するところ,その主張するところに関係する証拠(甲12,35,39)によっても,慰謝料として上記に認定判断したところを超える金額をもって相当とすべきとまでは認め難いというべきである。
(3) 上記(1)及び(2)に認定判断した金額の合計は,9979万8549円である。
3 Aに関する相続関係について(請求原因(4)関係)
請求原因(4)の事実は,当事者間に争いがない。
4 原告X1の弁護士費用以外の損害について(請求原因(5)関係)
(1) 請求原因(5)アの事実のうち,原告X1が葬儀関係費として181万2240円を負担したことは,当事者間に争いがなく,証拠(甲24の2の1ないし8,24の3の1ないし3,24の4ないし7,24の8の1ないし3,24の9,24の10の1ないし40,24の11の1ないし10,33の2ないし12及び14ないし19,36)によれば,原告X1は,Aの葬儀等につき総額250万円を超える支出をし,また,原告X2及び原告X3も,Aの葬儀等につき40万円を超える支出をするとともに,墓地及び墓石の購入等につき400万円を超える支出をしたことが認められるところ,既に認定したAの身上や本件事故の態様等に照らし,Aの親族において墓地及び墓石の購入を含めたAの葬送等に関して十分に手厚く対応しようとしたことには無理からぬところがあることを考慮すると,賠償の対象として認められる範囲としては,250万円をもって相当というべきであり,原告X1については,上記のうち当事者間に争いがない181万2240円の限度で認め,その余の68万7760円は,原告X2及び原告X3について認めることとする。
(2) 請求原因(5)イの事実のうち,原告X1が本件事故による交通費として平成17年7月11日及び同月12日に7万2300円を負担したことは,当事者間に争いがなく,証拠(甲25の3・4及び6ないし9,36)によれば,原告X1は,同月19日以降も,警察署又は検察庁への出頭,弁護士又は関係相談機関との相談,C監査法人への挨拶,被告Y1に対する刑事被告事件の公判手続の傍聴,本件事故の発生した現場の訪問等について,交通費を支出したことが認められるが,上記の争いがない金額を超えるもののような支出については,損害賠償実務において賠償の対象として認められる範囲に属するとの認識が定着しているとはいい難い。
(3) 請求原因(5)ウ及びエの事実については,主張に係る支出がされたことは証拠(甲26の1ないし30,36)によりうかがわれるが,そのような支出については,損害賠償実務において賠償の対象として認められる範囲に属するとの認識が定着しているとはいい難い。
(4) 請求原因(5)オの事実については,証拠(甲27の8の1・2,36)によれば,原告X1は本件事故に係る交通事故証明書を取得するために2400円を支出したことが認められるほか,証拠(甲27の1の1ないし11,27の2の1ないし5,27の3の1・2,27の4の1ないし6,27の5,27の7の1ないし6,27の9・10,27の11の1・2,36)によれば,裁判に関する書籍の購入等につき支出をしたことが認められるが,後者のような支出については,損害賠償実務において賠償の対象として認められる範囲に属するとの認識が定着しているとはいい難い。
(5) 請求原因(5)カの事実のうち,原告X1がAの妻であること及び本件事故が発生したことは,当事者間に争いがなく,証拠(甲8,9,12,14,16,28,29の1ないし4,29の6の1・2,30の1ないし38・41ないし43及び45ないし47,32,35,36,39,40ないし43,46,47)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,既に認定した経緯により婚姻をしたAに対して深い愛情を抱いており,本件事故の発生を当時秘書業務に従事していたG信用金庫に出勤して知った後,失意の余り精神状態が不安定になって,平成17年7月15日以降半年以上にわたりその母により神奈川県平塚市から通っての付添いを受ける等の状況となったこと,原告X1は,本件事故が発生した2週間後に,無理を押して出勤したが,心因反応(心的外傷性悲嘆反応)及び抑うつ状態を発し,平成18年2月4日から同年11月13日までの間に3回にわたりハートクリニックに通院したほか,同年2月9日から東京医科歯科大学医学部附属病院に通院を開始し,これは少なくとも平成19年5月まで継続していたこと,原告X1は,平成18年12月28日まで,上記の通院等のために45.5日の休業をしながらも勤務を続けたが,同日に退職するに至ったこと,原告X1は,被告Y1に対する刑事被告事件の公判期日において熱心に傍聴するとともに被害者であるAの遺族として証言し,有罪判決に基づき刑事施設に収容された被告Y1について行われた仮釈放を許すか否かの審理に当たりこれを許すべきではない旨の意見を述べる等したこと,原告X1については,本件訴訟の平成20年5月27日の口頭弁論期日において,原告X2と共に本人尋問を実施することが予定されていたが,本件事故につき陳述することにつき精神的な負担を感じて体調を崩すに至り,これに応ずることができなかったこと,原告X1は,最近でも,Aの命日近くに既に認定した学生時代のサークルに所属していた友人の墓参を受けるなどする度に精神的なショックを受け続けていること等が認められる。
このように,原告X1の本件事故による被害感情は深くかつ峻烈なものであるところ,Aにつきその慰謝料を既に述べたとおり認めることも勘案し,原告X1が本件事故により受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては,200万円をもって相当と認める。
(6) 請求原因(5)キからシまでの事実については,原告X1が,本件事故の後にその母の付添いを受ける状況となり,更には心因反応(心的外傷性悲嘆反応)及び抑うつ状態を発して通院をするとともに,その勤務先を休業したこと等は,既に認定したとおりであり,これに伴って主張に係る支出がされる等のことがあったことは証拠(甲29の1ないし5,30の1ないし47,31,32,36)によりうかがわれるが,そのような支出等については,損害賠償実務において賠償の対象として認められる範囲に属するとの認識が定着しているとはいい難い。
(7) 上記の(1),(2),(4)及び(5)に認定判断した金額の合計は,388万6940円である。
5 原告X2及び原告X3の弁護士費用以外の損害について(請求原因(6)関係)
(1) 請求原因(6)ア及びイについては,4(1)に述べたとおり,68万7760円と認める。
なお,上記の金額と原告X2及びX3に係る葬儀関係費等の金額との差額につき慰謝料を増額する事由として考慮すべきであるとの主張については,これを採用することができない。
(2) 請求原因(6)ウについては,証拠(甲36)によれば,原告X2及び原告X3が本件事故の発生した平成17年7月11日及び同月12日にAの搬送先への交通費等として合計1万4350円を支出したことが認められ,その後も,証拠(甲36)によれば,原告X2及び原告X3は,警察署への出頭,関係相談機関との相談,C監査法人への挨拶,被告Y1に対する刑事被告事件の公判手続の傍聴,本件事故の発生した現場の訪問等について,交通費を支出したことが認められるが,上記の同月11日及び12日に係る合計1万4350円を超えるもののような支出については,損害賠償実務において賠償の対象として認められる範囲に属するとの認識が定着しているとはいい難い。
(3) 請求原因(6)エ及びオについては,主張に係る支出がされたことは証拠(甲33の1・13及び20ないし37,36)によりうかがわれるが,そのような支出については,損害賠償実務において賠償の対象として認められる範囲に属するとの認識が定着しているとはいい難い。
(4) 請求原因(6)カの事実のうち,Aが原告X2及び原告X3の唯一の子であることは,当事者間に争いがなく,証拠(甲13,16,35,37,38,40)に及び弁論の全趣旨によれば,原告X2及び原告X3は,既に認定した経歴等を有するAに対して深い愛情を抱いており,原告X1との間に子が生まれた後はいわゆる2世帯住宅で暮らすことも考えるなど,その成長等を楽しみするとともに,本件事故が発生した当時に60歳を超えていたことから,そのいわゆる老後についてはAによる扶養を期待する立場にあったところ,本件事故の発生の後,原告X2にあっては,本件事故はいわゆる通り魔殺人と同様のものであると考えるなどし,被告Y1に対してなお強い怒りを有しており,原告X3にあっては,原告X2が付き添っていないと100メートルも歩けないような状況になり,既に述べた本件訴訟の口頭弁論期日における原告X1等の本人尋問についても,強い精神的な負担を感じて体調を崩す等したものであって,Aの死亡による原告X2及び原告X3の落胆には筆舌に尽くし難いものがあり,また,その被害感情は深くかつ峻烈なものであるところ,Aにつきその慰謝料を既に述べたとおり認めることも勘案し,原告X2及び原告X3が本件事故により受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては,各100万円をもって相当と認める。
(5) 上記の(1),(2)及び(4)に認定判断した金額の合計は,270万2110円である。
6 弁護士費用について(請求原因(7)関係)
本件事故と相当因果関係の認められる弁護士費用の金額については,原告X1に関しては,相続により取得したAの損害賠償債権に係る2(3)記載の9979万8549円の3分の2に相当する6653万2366円と4(7)記載の388万6940円との合計が7041万9306円であることに照らし,700万円と認め,原告X2及び原告X3に関しては,相続により取得したAの損害賠償債権に係る2(3)記載の9979万8549円の6分の1に相当する1663万3091円(円未満は切捨て)と5(5)記載の270万2110円の2分の1に相当する135万1055円との合計が1798万4146円であることに照らし,各180万円と認める。
第4 結論
以上によれば,原告らの本件請求は,いずれも民法709条ないし711条及び自動車損害賠償保障法3条本文の規定に基づき,被告らに対し,各自,原告X1については,第3の6記載の金額のうち原告X1に係る合計7741万9306円及びこれに対する不法行為の日である本件事故の発生した平成17年7月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の,原告X2及び原告X3については,第3の6記載の金額のうち原告X2及び原告X3に係る各合計1978万4146円及びこれに対する上記の平成17年7月11日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,認容し,その余は,理由がないから,いずれも棄却することとする。