紛争の内容
ご依頼者様は、長年大切に乗ってきた愛車を運転中、信号のない交差点で、相手方車両と出会い頭に衝突する事故に遭われました。
幸いにも、ご依頼者様にお怪我はありませんでした。

しかし、事故の衝撃で愛車はフレームが歪むなど大きな損傷を受け、修理費用が車両の価値を上回る「経済的全損」という状態になってしまいました。
後日、相手方の保険会社から賠償額の提示がありましたが、その金額は、同程度の年式・走行距離の中古車を市場で到底購入できないような、低い「時価額」でした。

ご依頼者様は、「この金額では次の車の頭金にもならない。長年の愛車を失った上に、この賠償額ではあまりにも理不尽だ」と、保険会社の提示に到底納得ができず、当事務所にご相談に来られました。

交渉・調停・訴訟等の経過
当職が保険会社の提示額の根拠を確認したところ、いわゆる「レッドブック」(中古車価格の参考資料)の画一的な価格を基準としていることが分かりました。

そこで当職は、ご依頼者様の車両と同じ車種・年式・グレード・走行距離・装備品といった条件で、現在の中古車市場で実際にいくらで販売されているのかを徹底的に調査しました。
複数の大手中古車情報サイトや販売店の価格データを収集し、客観的な市場価格の実態を示す証拠を揃えました。

その上で、「レッドブックの価格はあくまで参考資料の一つに過ぎず、法的に正当な賠償額は、被害車両と同一の車両を中古車市場で取得するための『実勢価格』であるべきだ」と、具体的な市場データと共に保険会社へ強く主張し、賠償額の増額を求めました。

本事例の結末
当職の粘り強い交渉と客観的な証拠の提示により、保険会社は当初の主張を撤回し、当方が算出した市場の実勢価格に近い金額での賠償に応じました。

最終的に、当初の保険会社提示額から30万円を増額した賠償金を受け取ることで示談が成立しました。
ご依頼者様は、正当な補償を受けられたことに大変満足され、新しい車を購入するための資金的な目途も立ちました。

本事例に学ぶこと
物損事故において、保険会社が提示する車両の「時価額」は、必ずしも適正な市場価格を反映しているとは限りません。
特に年式が古い車両や、人気の車種などでは、その傾向が顕著です。
保険会社から全損扱いで時価額の提示を受けた際に、少しでも「低い」と感じた場合は、安易に同意しないでください。
弁護士が介入し、客観的な市場データを基に交渉することで、正当な賠償額を得られる可能性が大きく高まります。

弁護士 申 景秀