紛争の内容
ご依頼者の方がバイクを運転中、自動車と衝突する交通事故が発生しました。
本件では物損と人損の両面で大きな争点が生じました。

物損においては、被害車両であるバイクおよびヘルメットに施されていた「特殊な装飾」の評価が問題となりました。
通常の市場価格(時価)では到底再現できないこだわりが詰まった品であったため、保険会社が提示する画一的な賠償額と、実際の価値との間に大きな乖離(かいり)がありました。

人損においては、休業損害の範囲が焦点となりました。

ご依頼者の方は当時、技能実習生として研修を受けている最中でしたが、事故の影響で正式な勤務開始が遅れてしまいました。
この「開始が遅れた期間」の給与相当額を損害として認めるかどうかが、相手方との最大の争点となりました。

交渉・調停・訴訟等の経過
まず過失割合については、事故状況を詳細に精査し、粘り強く交渉を重ねた結果、最終的にこちらの主張を全面的に認めさせることができました。

休業損害については、実務上、就労開始前の期間分を請求することは非常に困難を極めます。
しかし、研修期間から実働への移行プロセスや、事故がなければ確実に得られたであろう利益を論理的に説明し、相手方保険会社との間で一歩も引かない交渉を続けました。

また、ヘルメットの装飾費用についても、単なる中古市場の時価ではなく、装飾に要した費用やその希少性を主張しました。
相手方も当初は難色を示していましたが、最終的には双方の主張を擦り合わせる形で、ご依頼者の方にも十分納得いただける「落としどころ」を導き出しました。

本事例の結末
結果として、休業損害については勤務が遅れた1ヶ月分について、こちらの主張が完全に認められる形で解決しました。

物損についても、特殊な装飾を含む損害額において、粘り強い交渉により裁判基準や当初の提示額を上回る利益を確保することができました。
裁判に持ち込むよりも迅速、かつご依頼者の方のこだわりを反映した実利のある解決となりました。

本事例に学ぶこと
本事例から学べる最も重要な点は、一見すると法的に認められることが難しいと思われる損害であっても、具体的な事情を丁寧に積み上げ、粘り強く交渉することで道が開けるという事実です。
特に技能実習生のような特殊な雇用形態における就労遅延の休業損害は、通り一遍の請求では退けられることが多いものですが、個別の事情をいかに説得力を持って提示できるかが鍵となります。

また、バイクのカスタムやヘルメットの装飾といった嗜好性の高い物損被害においても、機械的な「時価」の枠組みに縛られず、ご依頼者の方の想いや実際の価値を汲み取った交渉を行うことの大切さが再確認されました。
裁判は一つの有力な手段ではありますが、本件のように交渉の段階で相手方の譲歩を巧みに引き出すことで、裁判以上のメリットを迅速にご依頼者の方へ還元できるケースがあることを示しています。

弁護士 遠藤 吏恭