紛争の内容
その日、依頼者ご一家は、家族五人そろって一台の車に乗っておられました。運転席にはお父様、助手席にはお母様、そして車内にはお子様たちの姿もありました。ごくありふれた、家族の時間だったはずです。ところが、その車が後ろから追突されるという突然の事故に見舞われ、乗っていた五人全員が負傷するという事態になってしまいました。

幸い、お子様たちの症状は比較的軽いものでした。しかし、車の前方で衝撃を正面から受けることになった運転席のお父様と助手席のお母様は、捻挫や打撲といった怪我を負われ、通院を余儀なくされました。何の落ち度もない一家が、ある日突然、家族そろって被害者となってしまったのです。

本件は、当事務所が日頃からネットワークを築いている整骨院様からのご紹介によって、当職がお引き受けすることになった案件でした。治療のために通われていた整骨院を通じてご縁がつながったのです。もっとも、ご相談をお受けした当初は、けっして平穏な状況ではありませんでした。被害に遭われたご本人のお気持ちも強く、保険会社との間でかなり揉めそうな、緊張をはらんだ場面もあったのです。加えて、被害者が五人と多く、それぞれ症状も立場も異なるため、賠償の内容を一人ひとり丁寧に組み立てていく必要がありました。とりわけ、幼いお子様の賠償をどこまで認めてもらえるか、お父様が個人事業主で収入を裏づける資料が乏しいなかで休業損害をどう立証するか、専業主婦であるお母様の休業損害をどう評価してもらうか――本件には、そうした論点が幾重にも絡み合っていました。

交渉・調停・訴訟等の経過
当職がまず果たしたのは、ご本人と保険会社との間に立つ、いわばクッションとしての役割でした。被害に遭われた方が、加害者側の保険会社と直接やり取りをすると、どうしても感情的な対立が先鋭化しやすく、話がこじれてしまうことが少なくありません。本件も、まさにそうなりかねない状況にありました。そこで当職が代理人として間に入り、ご本人の切実なお気持ちをしっかりと受け止めつつ、保険会社との交渉は冷静かつ法的な筋道に沿って進めることで、無用な衝突を避けながら解決へと導いていきました。

そのうえで当職が心を砕いたのは、ご家族五人それぞれの被害を、一人残らず正当に評価してもらうことでした。とりわけ賠償額を大きく左右するのが、どの基準で慰謝料を算定するか、という点です。保険会社が当初提示してくる金額は、自賠責基準や保険会社独自の基準に基づく低い水準にとどまることが少なくありません。しかし、弁護士が代理人として関与する場合には、過去の裁判例の蓄積に基づくいわゆる弁護士基準(裁判基準)での賠償を求めていくことができます。当職は、ご家族全員について、この弁護士基準を土台とした賠償を粘り強く主張しました。

お子様たちについては、症状が比較的軽かったとはいえ、被害を受けたことに変わりはありません。当職は、お子様全員についてもきちんと賠償が認められるよう主張を尽くし、弁護士基準をベースとした賠償を実現しました。加えて、幼いお子様の通院には保護者の付き添いが欠かせないことから、付添看護費についても正当な損害として認めさせることができました。

お父様の賠償については、大きな壁がありました。お父様は個人事業主であり、休業による損害を裏づける客観的な資料が乏しかったのです。個人事業主の休業損害は、収入の証明が難しいために低く抑えられがちですが、当職は事情を丁寧に整理して主張を組み立て、休業損害として五十万円を認めさせることができました。通院慰謝料についても、おおむね弁護士基準に沿った水準での賠償を勝ち取りました。

お母様については、専業主婦の休業損害、いわゆる主婦休業損害が争点となりました。家事に従事する主婦が事故で家事をできなくなった場合、その不利益は立派な損害として賠償の対象になります。当職は、その損害額を、症状の回復に応じて徐々に減っていく形(逓減的な計算)で算定し、こちらの主張どおり満額を認めさせることに成功しました。慰謝料についても、同様に正当な水準での賠償を実現しています。

本事例の結末
こうして当職は、ご家族五人全員について、それぞれの立場に応じた正当な賠償を、一挙にまとめて実現することができました。免責証書にも、五人それぞれについて賠償額が確定していることが記されています。お子様たちには弁護士基準による賠償と付添看護費が認められ、お父様には資料の乏しいなかでの休業損害五十万円と弁護士基準に沿った慰謝料が、お母様には主張どおり満額の主婦休業損害と相応の慰謝料が認められました。

ひと家族で見ると、治療費を除いて、お受け取りが450万円に及びました。(全員、後遺障害はなし)

当初は保険会社とかなり揉めそうであった状況を思えば、これほど円満に、かつご家族全員にとって納得のいく形で終結できたことは、望みうる最良の結末だったといえます。

一台の車に乗っていたご家族が、一度の事故で全員被害者となる。それは、精神的にも経済的にも、一家にとって大きな打撃です。だからこそ、その被害の一つひとつを丁寧に拾い上げ、家族全員分の賠償をまとめて解決できたことには、大きな意味がありました。ご家族が、この一件に区切りをつけて、また前を向いて歩んでいかれる。そのお手伝いができたことを、当職は何よりうれしく思っています。

本事例に学ぶこと
本件が示すのは、家族が同乗中の事故では、被害者一人ひとりについて賠償を丁寧に組み立てることが、いかに大切かということです。同じ一つの事故であっても、運転していた方、助手席の方、後部座席のお子様とでは、症状も立場も異なり、それぞれに応じた主張が必要になります。まとめて一括りに扱われてしまえば、本来認められるべき損害が見落とされかねません。

とりわけ知っておいていただきたいのは、次のような点です。第一に、慰謝料には自賠責基準・保険会社基準・弁護士基準という複数の水準があり、弁護士が関与することで、より手厚い弁護士基準での賠償を求めていける場合が多いこと。第二に、お子様の通院に伴う付添看護費のように、見落とされがちでも正当に認められるべき損害があること。第三に、個人事業主の休業損害のように資料が乏しくても、事情を適切に整理すれば認めてもらえる余地があること。そして第四に、専業主婦の方の家事従事もまた、休業損害として金銭的に評価される立派な損害だということです。

あわせて本件は、弁護士が間に入ることの、もう一つの意義を教えてくれます。被害に遭われた方が保険会社と直接向き合うと、どうしても感情的な対立が生じ、かえって解決が遠のいてしまうことがあります。そうしたとき、代理人である弁護士がクッションとなり、ご本人のお気持ちを受け止めながら交渉を冷静に前へ進めることで、こじれかけた事案を円満な終結へと導くことができるのです。

なお、本件は、当事務所が連携している整骨院様からのご紹介でお引き受けした案件でした。当事務所では、こうした医療機関や整骨院の皆様、あるいは既存のご依頼者様などからのご紹介も、積極的にお受けしております。保険会社から提示された金額がご家族の被害に見合ったものなのか、ご自身だけで判断するのは決して簡単なことではありません。事故に遭われ、賠償のことで不安を抱えておられるご家族は、どうか一度、グリーンリーフ法律事務所にご相談ください。ご紹介に関するお問い合わせも含め、お気軽にお声がけいただければ幸いです。私たちは、ご家族お一人おひとりの被害に真摯に向き合い、正当な賠償の実現に力を尽くしてまいります。

弁護士 時田 剛志