
【記事要約】
家族で出かけた先での交通事故では、家族一人ひとりに別個の損害賠償請求権が発生します。しかし実務上、最も置き去りにされやすいのが子どもです。痛みを言葉にできず、外見にも現れないため受診が後回しになりますが、初期に受診していないと事故との因果関係を否定され、後遺障害の申請も困難になります。本記事では医学的知見を踏まえた初期対応と、親子全員の示談の進め方を弁護士が解説します。
休日、家族そろって車で出かけた先で事故に遭う。運転していた父親、助手席の母親、後部座席の子どもたち。
現場では、まず大人が救急車を呼び、警察を呼び、相手方と連絡先を交換します。首や腰の痛みを訴える大人は、その日のうちに整形外科を受診します。
そして、子どもについては——
「泣いていたけど、すぐ泣き止んだ」
「見たところ外傷はないし、元気に歩いている」
「本人も痛くないと言っている」
こうして、子どもだけが病院に行かないまま数日が過ぎていく。これは、家族同乗事故において最も多く、そして最も後悔につながるパターンです。
本稿では、家族全員が被害者となる事故において、とりわけ子どもの怪我がなぜ見落とされるのか、それが法的にどのような不利益をもたらすのか、そして親子全員の示談をどう進めるべきかを整理します。
第1 まず押さえる──「一家一件」ではなく「一人一件」

家族全員が同じ事故で負傷した場合でも、損害賠償請求権は一人ひとりに別々に発生します。父親の請求権、母親の請求権、子ども一人ひとりの請求権。これらはすべて独立した権利です。
にもかかわらず、実務では家族をまとめて一つの事案として扱おうとする動きが生じます。保険会社の担当者が一人で家族全員分を担当し、代表者である父親とだけ話を進めるといった形です。
これ自体が直ちに問題というわけではありません。しかし、次のような不都合が生じやすくなります。
- 症状の重い人に注目が集まり、軽症とみられた家族の請求が形式的に処理される
- 全員の治療期間が、回復の早い人に合わせて一律に打ち切られる
- 一括で提示された総額が大きく見えるため、内訳の不当性に気づかない
家族の誰か一人が重傷であれば、その人の賠償額が全体の印象を左右します。しかし、他の家族の請求権が適正に評価されているかは、別途検証しなければなりません。
そして、この構造の中で最も置き去りにされやすいのが、子どもです。
第2 なぜ子どもの怪我は見落とされるのか

1 子どもは症状を言葉にできない
大人であれば「首の後ろが張る」「朝起きると頭が重い」「腕がしびれる」と表現できます。しかし幼児や小学校低学年の子どもに、そうした表現力を期待することはできません。
子どもの不調は、しばしば別の形で現れます。
- なんとなく機嫌が悪い日が続く
- 抱っこをせがむ回数が増えた
- 寝つきが悪くなった、夜中に起きるようになった
- 好きだった遊びをしなくなった
- 集中力が落ち、学校で注意されることが増えた
親としては「事故のショックだろう」「そういう時期なのだろう」と考えてしまいがちです。しかし、こうした変化が身体的な不調に由来している可能性は、決して低くありません。
2 医学的な知見はどう述べているか
「子どもは体が柔らかいから、むちうちにはならない」と説明されることがあります。これは正確ではありません。
疫学的な調査では、むちうち(外傷性頸部症候群)で医療機関を受診する頻度は若年成人層で最も高いとされており、小児の受傷リスクを成人より低く見積もる報告も存在します。この意味では、大人のほうが症状を訴えて受診する場面が多いことは事実です。
しかし、英国の救急外来で行われた前向き調査では、自動車事故に同乗していた4歳から16歳の小児105名のうち、約半数に頸部症状が生じたと報告されています。同調査は、小児の臨床経過が成人より良好であり、症状の平均持続期間は9日程度であったとしています。
ここから読み取るべきことは、次の二点です。
第一に、子どもが受傷しないわけではないということ。むしろ相当な割合で症状が生じています。
第二に、子どもは症状が出ても比較的短期間で軽快することが多いということ。だからこそ、早い段階で医師の診察を受けておかなければ、後から振り返って記録が何も残らないのです。
なお、小児は身体に対して頭部が相対的に大きく、頸部の筋力も未発達であるため、衝撃が頸部に及びやすいという指摘もあります。「体が柔らかいから大丈夫」という素人判断は、医学的にも根拠が乏しいものです。
3 外見に現れない損傷という問題
とりわけ注意を要するのが、外見からは判断できない損傷です。
頭部を打っている場合、受傷直後には症状がなくとも、時間の経過とともに頭蓋内出血の症状が現れることがあります。嘔吐、意識のもうろう、けいれん、繰り返す頭痛などは、直ちに救急受診を要するサインです。
また、チャイルドシートやシートベルトによる腹部の圧迫損傷も、小児事故に特有の類型として知られています。腹痛の訴えが乏しくても、内部で損傷が生じている可能性は否定できません。
これらは、親が外から見て判断できるものではありません。医師が診察し、必要な検査を行って初めて判断できる領域です。
第3 初期に受診しないことの法的な帰結

医学的な必要性に加えて、法的にも初期受診には決定的な意味があります。
1 因果関係を否定される
損害賠償請求において、加害者が賠償責任を負うのは、その事故によって生じた損害についてです。したがって、症状と事故との間に因果関係があることが前提となります。
事故から日数が経過してから初めて受診した場合、相手方保険会社は必ずこう主張します。
「事故直後に受診していないのだから、その症状は本件事故によるものとは認められない」
「その間に別の原因で生じたものではないか」
この主張に対して有効な反論をするには、事故直後の医療記録が必要です。しかし、その記録が存在しないからこそ、こうした主張がなされるのです。
実務上、事故から受診までの期間が2週間を超えると、因果関係についての争いが生じやすくなります。子どもの場合、「本人が痛いと言わなかったから」という説明は、必ずしも通用しません。
2 治療費・慰謝料が認められない
因果関係が否定されれば、その後の治療費は自己負担となります。入通院慰謝料も、事故と関係のない通院として評価されません。
3 後遺障害の申請が困難になる
最も深刻なのは、症状が残ってしまった場合です。
後遺障害等級の認定においては、事故直後から症状固定に至るまでの経過が一貫していることが重視されます。初期の記録が欠落していると、症状の連続性を証明できず、等級が認定されない、あるいは低い等級にとどまるという結果を招きます。
子どもの後遺障害は、逸失利益の算定において就労可能年数が長く取られるため、大人よりも高額になることが少なくありません。その可能性を、初期対応の不備によって自ら閉ざしてしまうことになります。
第4 では、どう通院すべきか

ここで強調したいのは、「念のため通い続けなさい」ということではありません。実態のない通院を重ねることは、かえって不自然な治療として問題視されます。
適切なのは、次のような対応です。
1 事故当日、遅くとも翌日に受診する
症状の有無にかかわらず、まずは受診してください。「痛いと言っていないから」ではなく、「事故に遭ったから」受診するのです。
小児科でも整形外科でも構いませんが、頭部を打っている可能性があるなら脳神経外科の受診も検討してください。救急外来を受診した場合でも、後日改めて日中の外来にかかり、経過を診てもらうことをお勧めします。
2 医師に事故の状況を正確に伝える
いつ、どのような態様の事故か(追突か側面衝突か、速度はどの程度か)、子どもがどの座席にいたか、チャイルドシートを使用していたか、頭を打った可能性があるか。これらを具体的に伝えてください。
診断書やカルテに事故の状況が記載されることが、後の因果関係の立証において大きな意味を持ちます。
3 必要な検査を受ける
医師の判断により、レントゲン、CT、MRIなどの検査が行われることがあります。小児への被曝を懸念される方もいますが、必要性は医師が判断します。疑問があれば、その場で説明を求めてください。
検査の結果、異常がなければそれで構いません。「検査をして異常がなかった」という記録自体が、後に症状が現れた場合の比較資料になります。
4 症状の変化を記録する
受診後、家庭での様子を簡単に記録しておいてください。日付とともに、機嫌、睡眠、食欲、遊びの様子、痛みの訴えの有無を数行書き留めるだけで十分です。
子どもは自分で症状を説明できません。親が観察し記録したものが、そのまま医師への情報となり、また証拠にもなります。
5 通院の終了は医師の判断で
症状が消失すれば、通院を終了することに何ら問題はありません。重要なのは、自己判断で中断するのではなく、医師に「もう来なくてよい」と言ってもらうことです。
保険会社から治療費の支払い打ち切りを打診された場合も、直ちに応じる必要はありません。まずは主治医の意見を確認してください。
第5 過失相殺と保険の確認

1 「被害者側の過失」に注意
家族同乗事故に特有の論点として、被害者側の過失という考え方があります。
判例上、被害者本人に過失がなくても、被害者と身分上・生活関係上一体をなすとみられる者に過失がある場合には、その過失を考慮して賠償額を減額できるとされています(最高裁昭和42年6月27日判決)。
つまり、運転していた父親に3割の過失があれば、同乗していた子どもが相手方に請求する際も、その3割が斟酌され得るということです。
2 自分側の保険を確認する
減額された分をどこから回収するかが問題になります。ここで機能するのが、次の保険です。
- 人身傷害補償保険(過失割合にかかわらず、約款所定の基準で支払われる)
- 搭乗者傷害保険
- 運転者自身の自賠責保険(同乗家族は運行供用者に対する関係で「他人」にあたるのが原則)
- 弁護士費用特約(家族全員が利用できる場合が多い)
とくに人身傷害補償保険と弁護士費用特約は、家族事故において極めて有用です。保険証券を必ず確認してください。
第6 示談を急がないこと

1 症状固定の時期は一人ひとり違う
同じ日に同じ事故に遭っていても、回復の経過は人によって異なります。保険会社から「全員分まとめて解決しましょう」と提案されても、治療中の家族がいる段階で応じるべきではありません。示談は原則としてやり直しがきかないためです。
2 子どもの分は特に慎重に
子どもは成長の途上にあり、事故直後には判明しない影響が、後の発達段階で明らかになることがあります。頭部外傷後の高次脳機能障害などは、その典型です。
「軽症だから」と早期に示談してしまえば、その後に生じた損害を請求する道は事実上閉ざされます。
3 一括提示の内訳を必ず求める
家族分の一括提示を受けた場合、必ず一人ひとりの内訳を確認してください。総額として大きく見えても、内訳を見ると、通院回数の少ない家族の慰謝料が自賠責基準にとどまり、裁判所基準(弁護士基準)との間に相当な開きが生じているケースが目立ちます。
おわりに──「元気そうに見える」を根拠にしないでください

家族全員が被害者となる事故では、大人は自分の痛みを抱えながら、子どもの世話をし、保険会社と連絡を取り、仕事の穴を埋めなければなりません。
その中で、痛いと言わない子どもを病院に連れて行くことは、優先順位の後ろに回されがちです。しかし、その判断が後に取り返しのつかない結果を招くことがあります。
医学的な判断は医師に、法的な判断は弁護士に委ねてください。親が担うべき役割は、子どもを診てもらう場に連れて行き、日々の様子を記録することです。それだけで、後の選択肢は大きく広がります。
弁護士費用特約に加入していれば、多くの場合、費用のご負担なくご依頼いただけます。まずは保険証券をご確認のうえ、お早めにご相談ください。ご家族の誰か一人も損をすることのないよう、全体を見通した対応をご提案いたします。
グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、交通事故問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。交通事故という法律問題に関し、ご相談者、ご依頼者がより充実した日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして、全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
交通事故
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、交通事故による損害賠償請求案件を多数担当。後遺障害等級の認定手続・保険会社との示談交渉・訴訟対応に精通し、適正な賠償額の実現に注力。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、お亡くなりになった案件のご家族からの依頼や高次脳機能障害などの実績も豊富である。埼玉テレビ・フジテレビ「とくダネ!」等のメディア出演や日本経済新聞への掲載実績もあり、信頼性の高い弁護士として被害者救済に取り組む。








