【交通事故】高次脳機能障害|「見えない後遺障害」で適正な等級と賠償を得るために弁護士が解説

交通事故で頭部に強い衝撃を受け、意識を失った。救急搬送され、一命はとりとめた。しかし退院後、ご家族は違和感を覚えます。以前と人が変わったように怒りっぽい、同じことを何度も聞く、約束を忘れる、仕事の段取りが組めない、一日中ぼんやりしている——。

これらは、脳の損傷によって生じる「高次脳機能障害」の典型的な症状です。手足の麻痺のように目に見えるわけではなく、短い診察時間ではご本人も「大丈夫です」と答えてしまうため、周囲にも医師にも気づかれないまま治療が終わってしまうことが少なくありません。

高次脳機能障害は、認定される等級によって賠償額が一千万円台から一億円を超える水準まで大きく変動する、交通事故の中でも最も重い後遺障害のひとつです。それだけに、立証の巧拙が結果を決定的に左右します。

本記事では、高次脳機能障害の等級認定の仕組みと、重傷を負われた方とそのご家族が何を準備すべきかについて、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

高次脳機能障害とは何か

高次脳機能障害とは何か

脳の器質的損傷によって生じる認知・行動の障害

高次脳機能障害とは、外傷によって脳が器質的に損傷した結果、記憶、注意、遂行機能、社会的行動といった「高次の脳のはたらき」に障害が残った状態をいいます。びまん性軸索損傷、脳挫傷、急性硬膜下血腫、くも膜下出血などが原因となります。

身体の麻痺を伴うこともありますが、麻痺がまったくなく、歩行も会話も一見正常であるのに、仕事や家庭生活が成り立たなくなるというケースが典型です。このため「見えない障害」と呼ばれます。

家族しか気づけない症状

具体的には、新しいことを覚えられない記憶障害、ひとつの作業に集中できない注意障害、計画を立てて順序よく物事を進められない遂行機能障害、そして感情の抑制がきかない、こだわりが強くなる、意欲が湧かないといった社会的行動障害が現れます。

医師の前では礼儀正しく受け答えができてしまうため、診断書に症状が反映されないことがあります。日常生活を共にしているご家族の観察こそが、最も重要な証拠になります。

認定される後遺障害等級と賠償水準

認定される後遺障害等級と賠償水準

六つの等級に振り分けられる

高次脳機能障害は、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力という四つの能力がどの程度失われたかによって、次のように等級が振り分けられます。

別表第一・第一級一号(常に介護を要するもの)

身体機能は残存していても、自力では意思疎通や身の回りの処理ができず、常時他人の介護を必要とする状態です。労働能力喪失率は一〇〇パーセントです。

別表第一・第二級一号(随時介護を要するもの)

著しい判断力の低下や情動の不安定があり、一人で外出できない、火の始末ができないなど、行動を常に監視し、随時介護が必要な状態です。

第三級三号・第五級二号・第七級四号・第九級一〇号

第三級は生涯にわたり労務に服することができないもの、第五級は極めて軽易な労務にしか服することができないもの、第七級は軽易な労務以外には服することができないもの、第九級は通常の労務には服せるものの就労可能な職種が相当程度制限されるものとされています。

後遺障害慰謝料の目安

いわゆる赤い本(民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準)の基準によれば、後遺障害慰謝料は第一級二八〇〇万円、第二級二三七〇万円、第三級一九九〇万円、第五級一四〇〇万円、第七級一〇〇〇万円、第九級六九〇万円が目安とされています。

第一級・第二級といった重度後遺障害の場合には、これに加えて近親者固有の慰謝料が認められることがあります。裁判例では、ご本人分三〇〇〇万円前後に父母各三〇〇万円から四〇〇万円を加算し、後遺障害分の合計で三六〇〇万円から三八〇〇万円を認めた例が複数あります。

等級認定で最も重要な三つの立証

等級認定で最も重要な三つの立証

意識障害の程度と持続時間

自賠責保険の実務では、事故直後の意識障害の有無と程度が重視されます。具体的には、開眼や応答をしない半昏睡から昏睡の状態(JCS三桁から二桁、GCS一二点以下)が少なくとも六時間以上続いたか、あるいは健忘症状や軽度の意識障害(JCS一桁、GCS一三点から一四点)が少なくとも一週間以上続いたかが目安とされます。

救急搬送時の記録、経過観察記録、看護記録に残されたJCS・GCSの数値は、後から作り直すことができません。カルテ一式を早期に取り付けて確保しておくことが不可欠です。

画像所見による器質的損傷の裏付け

CTやMRIで、脳挫傷痕、びまん性軸索損傷を示す点状出血、脳室拡大、脳萎縮といった所見が確認できるかが問われます。急性期には目立たなくても、三か月後、六か月後の画像で脳室の拡大や脳全体の萎縮が進行していることが確認され、器質的損傷の裏付けとなる場合があります。

そのため、受傷直後の画像だけでなく、経時的に撮影を続けてもらうことが重要です。担当医に対し、症状固定前にあらためてMRIを撮影するよう求めることも検討してください。

日常生活状況報告書の作成

自賠責の審査では「日常生活状況報告表」の提出が求められます。これはご家族が記入する書面で、事故前と事故後で何がどう変わったかを具体的に記載するものです。

ここで「だいたいできています」と遠慮して書いてしまうと、実態より軽く評価されます。ガスの火を消し忘れた、同じ商品を何度も買ってくる、道に迷って帰れなくなった、些細なことで激高したといった具体的なエピソードを、日付とともに記録しておいてください。

就労中の方であれば、勤務先に作成してもらう「職場における状況報告」も有力な資料になります。ミスの内容、配置転換の経緯、周囲の支援の程度を書面化しておきましょう。

逸失利益の算定でも争いになる

高次脳機能障害の逸失利益は、労働能力喪失率を何パーセントとするか、喪失期間を何年とするかで金額が大きく変わります。第一級から第三級までは労働能力喪失率一〇〇パーセント、第五級は七九パーセント、第七級は五六パーセント、第九級は三五パーセントが目安です。

もっとも、保険会社は「現に就労を継続しており減収がない」として喪失率の引下げを主張してくることがあります。これに対しては、本人が人一倍の努力で職を維持していること、周囲の配慮によって辛うじて就労できていること、昇進・昇給の道が閉ざされたことなどを主張し、現実の減収がなくとも逸失利益を認めるべきであると反論します。

若年者や学生の場合には、基礎収入を賃金センサスの全年齢平均賃金とし、原則として六七歳までの長期間にわたって喪失率を認めることになります。喪失期間が四〇年、五〇年に及ぶため、逸失利益だけで一億円を超えることも珍しくありません。

見落とされやすい落とし穴

見落とされやすい落とし穴

神経心理学的検査を受けていない

知能検査(WAIS)、記憶検査(WMS-R)、注意機能検査(TMT、CAT)、遂行機能検査(BADS、WCST)といった神経心理学的検査の結果は、障害の程度を客観的に示す重要な資料です。

しかし、一般の整形外科や脳神経外科では実施されないことがあります。リハビリテーション科や高次脳機能障害支援拠点機関を受診し、必要な検査を受けておくことをお勧めします。

症状固定が早すぎる

保険会社から「そろそろ症状固定にしましょう」と打診されることがあります。しかし高次脳機能障害は、受傷から一年、二年と時間をかけてリハビリを行う中で、はじめて障害の全体像が見えてくるものです。

特に小児や学生の場合、進級・進学の段階で初めて学習上の困難が顕在化することがあります。早期の症状固定は、低い等級での確定を意味します。安易に応じてはいけません。

素因減額・既往症の主張

保険会社側から、事故前からの飲酒歴、既往の認知機能低下、加齢による脳萎縮などを理由に減額を主張されることがあります。事故前の就労状況や生活状況を示す資料を確保し、事故前後の落差を具体的に示すことが反論の柱になります。

重度の場合に請求できる損害項目

重度の場合に請求できる損害項目

将来介護費

赤い本の基準では、将来介護費は、職業付添人については実費全額、近親者付添人については一日につき八〇〇〇円が目安とされています。もっとも、これはあくまで目安であり、実際の裁判例では介護の実態に応じて大幅な増額が認められています。

遷延性意識障害や重度の高次脳機能障害の事案では、近親者介護の期間について日額一万五〇〇〇円から一万八〇〇〇円、職業介護人による介護の期間について日額二万円から二万八〇〇〇円を認め、総額で一億円を超える将来介護費を認容した裁判例があります。

家屋改造費・自動車改造費

在宅介護に移行するために住宅をバリアフリー化する費用、介護用の車両に改造する費用も損害として認められます。第二級以上の事案では、家屋の建替え費用に近い金額が認められた例もあります。

後見開始の申立費用と後見人報酬

判断能力を欠く状態になった場合には、成年後見の申立てが必要になります。申立費用のほか、将来にわたる後見人報酬も損害として認められる場合があります。

労災保険・障害年金との関係

業務中や通勤途上の事故であれば労災保険が使えます。労災の障害補償給付と自賠責・任意保険の賠償は調整されますが、労災の特別支給金は損益相殺の対象にならず、実質的に上乗せとして受け取ることができます。

また、高次脳機能障害は精神の障害として障害基礎年金・障害厚生年金の対象になり得ます。身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳の取得により、各種の福祉サービスを利用できる場合もあります。賠償請求と並行して、利用できる公的制度を漏れなく確認しておくことが生活の再建につながります。

弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリット

立証の設計を初期段階から行える

高次脳機能障害の事案は、症状固定後に慌てて資料を集めても間に合いません。どの時点でどの検査を受け、どの記録を確保しておくかという設計を、治療中から行う必要があります。弁護士が早期に関与する意味はここにあります。

被害者請求により手続を主導できる

保険会社に任せる事前認定ではなく、ご自身で自賠責保険に請求する被害者請求の方法をとれば、提出する資料をこちらで選び、意見書を添付することができます。認定に不服がある場合の異議申立てでも、不足していた立証を補う書面を作成します。

ご家族の負担を軽くできる

ご本人の介護をしながら、保険会社との交渉、書類の収集、行政手続をすべて担うことは現実的ではありません。窓口を一本化することで、ご家族は介護と生活の立て直しに集中できます。

当事務所のサポート内容

当事務所のサポート内容

①医学的資料の精査と見通しの提示

診療記録・画像・救急搬送記録を取り付け、意識障害の程度と器質的損傷の有無を医学的に確認したうえで、想定される等級と賠償額の見通しを率直にお伝えします。

②不足している検査の手配

不足している神経心理学的検査の実施を主治医に依頼し、ご家族と一緒に日常生活状況報告表を作成します。勤務先の状況報告が必要な場合には、その書式もご用意します。

③被害者請求と異議申立て

弁護士名義の意見書を添えて被害者請求を行います。認定結果に不服がある場合には、医療照会の回答や医師面談の結果を踏まえた異議申立てを行います。

④示談交渉と訴訟

赤い本の基準を前提に、将来介護費、家屋改造費、近親者慰謝料まで含めた全項目を積算して請求し、折り合えない場合には訴訟に移行します。

おわりに

おわりに

高次脳機能障害は、外から見えないがゆえに、正しく評価されないまま終わってしまう危険が最も大きい後遺障害です。等級がひとつ違うだけで、賠償額は数千万円単位で変わります。

そして、その差を生むのは、事故直後の記録、経時的な画像、神経心理学的検査、そしてご家族が書き残した日々の記録です。いずれも、時間が経つほど手に入りにくくなります。

「以前とは何かが違う」とお感じになったら、症状固定を待たず、できるだけ早い段階でご相談ください。当事務所では、弁護士費用特約をご利用いただける場合はご自己負担なく、特約がない場合も原則として着手金無料で対応しております。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

交通事故

弁護士登録後、交通事故による後遺障害・慰謝料増額・保険会社との示談交渉など多数の事案を担当。不当要求防止責任者講習の講師として培った毅然とした交渉力を武器に、保険会社との粘り強い折衝を得意とする。交通事故問題について、テレビ朝日「グッド!モーニング」出演歴があり、また中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。