
骨盤や大腿骨、脛骨、上腕骨を骨折し、長期の入院と手術を経て、ようやく歩けるようになった。しかし膝が完全には曲がらない、肩が上がらない、足首が固まってしまった——。
このように、関節の動きが制限された状態を「関節の機能障害」といいます。可動域がどの程度制限されているかによって後遺障害等級が決まり、賠償額も大きく変わります。
ところが、可動域の測定方法には細かな決まりがあり、測り方ひとつで等級が一段階も二段階も変わってしまいます。また、人工関節を入れた場合や、靱帯損傷によって関節がぐらつく「動揺関節」の場合には、また別の基準が用意されています。
本記事では、上肢・下肢の機能障害について、等級認定の仕組みと見落とされやすい注意点を、埼玉県大宮の弁護士が解説します。
関節の機能障害はどう評価されるか

三つの区分
関節の機能障害は、健側(障害のない側)の可動域角度と比較して、次の三段階で評価されます。
関節の用を廃したもの
関節が強直したもの、すなわち可動域が健側の可動域角度の一〇パーセント程度以下に制限されているものをいいます。完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもののほか、人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の二分の一以下に制限されているものも、これに該当します。
関節の機能に著しい障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域角度の二分の一以下に制限されているものをいいます。人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、「用を廃したもの」に当たらないもの、すなわち可動域が健側の二分の一を超えるものも、これに該当します。
関節の機能に障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域角度の四分の三以下に制限されているものをいいます。
上肢の等級
上肢の三大関節とは、肩関節、ひじ関節、手関節をいいます。
一上肢の用を全廃したものは第五級六号、三大関節中の二関節の用を廃したものは第六級六号、一関節の用を廃したものは第八級六号、一関節の機能に著しい障害を残すものは第一〇級一〇号、一関節の機能に障害を残すものは第一二級六号とされています。
なお、欠損障害については、両上肢をひじ関節以上で失ったものが第一級三号、一上肢をひじ関節以上で失ったものが第四級四号、一上肢を手関節以上で失ったものが第五級四号です。
下肢の等級
下肢の三大関節とは、股関節、膝関節、足関節をいいます。
一下肢の用を全廃したものは第五級七号、三大関節中の二関節の用を廃したものは第六級七号、一関節の用を廃したものは第八級七号、一関節の機能に著しい障害を残すものは第一〇級一一号、一関節の機能に障害を残すものは第一二級七号とされています。
欠損障害では、両下肢をひざ関節以上で失ったものが第一級五号、一下肢をひざ関節以上で失ったものが第四級五号、一下肢を足関節以上で失ったものが第五級五号です。
短縮障害
下肢を五センチメートル以上短縮したものは第八級五号、三センチメートル以上短縮したものは第一〇級八号、一センチメートル以上短縮したものは第一三級八号とされます。
短縮は、上前腸骨棘と下腿内果下端との間の長さを健側と比較して測定します。骨折後の変形治癒や骨癒合不全で生じることがあり、見落とされやすい項目です。
慰謝料の目安
赤い本の基準では、後遺障害慰謝料は第五級一四〇〇万円、第六級一一八〇万円、第七級一〇〇〇万円、第八級八三〇万円、第一〇級五五〇万円、第一二級二九〇万円が目安とされています。
保険会社が最初に提示してくる金額は、自賠責保険の支払基準や任意保険会社の内部基準によるもので、赤い本の基準を大きく下回ることが通常です。第八級であれば三〇〇万円台、第一〇級であれば二〇〇万円前後を提示されることも珍しくありません。弁護士が介入して裁判基準で交渉するだけで、二倍から三倍になる事案が多くあります。
裁判例には、右股関節の機能障害(第一二級)の主婦について、後遺障害の程度が第一〇級に近いこと、将来人工骨頭置換術を余儀なくされる可能性があることを考慮して、第一二級の基準を大きく上回る五五〇万円を認めたものもあります。
可動域測定で失敗しないために

主要運動と参考運動
関節ごとに「主要運動」が定められています。肩関節は屈曲と外転・内転、ひじ関節は屈曲・伸展、手関節は屈曲・伸展、股関節は屈曲・伸展、膝関節は屈曲・伸展、足関節は屈曲・伸展が主要運動です。
等級は原則として主要運動の可動域制限で判断されます。もっとも、主要運動の可動域制限がわずかに基準に届かない場合には、参考運動(肩関節の外旋・内旋、股関節の外転・内転など)の制限を併せて考慮することがあります。
自動値と他動値
可動域の測定には、患者自身が動かす「自動値」と、検者が動かす「他動値」があります。原則として他動値で評価されます。
ただし、末梢神経の損傷により自動運動ができない場合など、他動では動くが自分では動かせないという事情があるときは、自動値で評価すべき場合があります。後遺障害診断書には、自動値と他動値の双方を記載してもらうことが重要です。
健側がない場合
両側を受傷した場合や、もともと反対側にも障害がある場合には、健側との比較ができません。この場合は、日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が定める参考可動域角度を基準として判断します。
測定は必ず角度計で
後遺障害診断書の可動域欄が「屈曲おおむね一二〇度」といった曖昧な記載になっていたり、五度刻みでない端数が並んでいたりすると、測定の正確性を疑われます。角度計(ゴニオメーター)を用いた正確な測定を依頼してください。
また、可動域制限には必ず器質的な原因が必要です。骨癒合の状態、関節面の不整、関節周囲の瘢痕拘縮といった所見がレントゲンやCT、MRIで裏付けられていなければ、「努力すれば動くはずだ」として認定されないことがあります。
重傷事案では症状固定を急がない
大腿骨や脛骨の骨折では、プレートやスクリューによる固定術の後、骨癒合を待って抜釘手術を行うことが一般的です。抜釘の前後で可動域が変わることもありますので、抜釘を終え、リハビリの効果が頭打ちになった段階で症状固定とすべきです。
保険会社は受傷から六か月を目安に治療費の打切りを打診してきますが、重傷事案でこれに応じる必要はありません。打ち切られた場合でも、健康保険を使って治療を継続し、後から治療費を請求する方法があります。治療を中断してしまうと、可動域制限の程度が軽く評価されるだけでなく、後遺障害の存在自体を争われる原因になります。
人工関節・動揺関節の取扱い

人工関節を入れた場合
股関節や膝関節に人工関節・人工骨頭を挿入置換した場合、可動域が健側の二分の一以下であれば第八級、二分の一を超えていれば第一〇級と評価されるのが原則です。
人工関節には耐用年数があり、若年者であれば生涯に複数回の再置換手術が必要になります。将来の手術費用や、再手術に伴う休業損害も損害として請求できる場合があります。
動揺関節
膝の前十字靱帯(ACL)や後十字靱帯、側副靱帯を損傷すると、関節がぐらつく動揺関節となります。可動域自体は保たれていることが多いため、可動域の数値だけを見ると軽く評価されがちです。
動揺関節は、常に硬性補装具を必要とするものは第八級相当、時々硬性補装具を必要とするものは第一〇級相当、重激な労働等の際に硬性補装具を必要とするものは第一二級相当として評価されます。
立証のポイントは、ストレスレントゲン撮影による健側との動揺幅の比較、徒手検査(ラックマンテスト、前方引き出しテスト、ピボットシフトテスト)の所見、そして医師の指示による装具の処方です。装具の処方箋や購入時の領収書は、必ず保管しておいてください。
偽関節・変形障害
骨折部が癒合せず偽関節となった場合、上腕骨や前腕骨に偽関節を残し著しい運動障害を残すものは第七級九号、偽関節を残すものは第八級八号とされます。下肢についても同様の規定があります。
また、鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨、骨盤骨に著しい変形を残すものは第一二級五号とされます。骨盤骨折後の変形は見落とされやすく、レントゲン画像で左右差を確認することが必要です。
逸失利益で争われやすい点

職業との関係
関節の機能障害は、職業によって就労への影響が大きく異なります。建設作業員、運送業のドライバー、調理師、美容師、介護職など、身体を使う職種では、可動域制限が直接的に収入に結びつきます。
裁判例には、移動式クレーン運転士の左ひじ関節の機能障害(第一二級六号)等について、事故時まで約一三年にわたり経験を積み技能を習得してきた運転士としての稼働に対する支障が大きいとして、第一二級の基準である一四パーセントを超える二〇パーセントの労働能力喪失率を認めたものがあります。
「等級表どおりの喪失率で計算する」という保険会社の主張に対しては、具体的な業務内容と支障の実態を示して、より高い喪失率を主張する余地があります。
喪失期間の制限
保険会社は、第一二級の神経症状について「喪失期間は一〇年に制限すべきだ」と主張することがあります。しかし、器質的損傷に基づく可動域制限は、時間の経過によって回復するものではありません。関節の機能障害については、原則として六七歳までの全期間について喪失を主張すべきです。
併合による等級の繰上げ
複数の関節に障害が残った場合や、機能障害と神経症状が併存する場合には、併合によって等級が繰り上がります。第一三級以上が二つ以上あれば一級繰上げ、第八級以上が二つ以上あれば二級繰上げ、第五級以上が二つ以上あれば三級繰上げです。
個々の障害を漏れなく拾い上げることが、結果として大きな差につながります。
弁護士に依頼するメリット

後遺障害診断書の作成段階から関与できる
可動域の測定漏れ、自動値のみの記載、器質的原因の記載不足。後遺障害診断書の不備は、提出してしまってからでは取り返しがつきません。作成前に必要な記載事項を整理してお渡しすることで、こうした事態を防ぎます。
併合・準用の主張ができる
等級表に明記されていない障害でも、相当する等級に準じて認定される場合があります。動揺関節や骨盤骨変形はその典型です。制度を理解したうえで主張を組み立てる必要があります。
職業上の支障を金額に翻訳できる
同じ第一〇級でも、事務職と技能職では現実の損害が違います。就業規則、給与明細、業務日報、上司の陳述書などを積み上げ、現実の不利益を数字にして主張します。
当事務所のサポート内容

①画像とカルテの精査
まず画像とカルテを取り付け、骨癒合の状態や関節面の不整といった器質的所見を確認したうえで、想定される等級をお伝えします。
②可動域測定の依頼書を作成
主要運動・参考運動のいずれについても、自動値と他動値の双方を角度計で測定していただくよう、主治医あての依頼書を作成します。動揺関節が疑われる場合には、ストレスレントゲンの撮影と装具処方の記載も併せて依頼します。
③被害者請求と異議申立て
申請は原則として被害者請求により行い、認定結果に不服があるときは、可動域の再測定結果や医師の意見書を添えて異議申立てを行います。
④示談交渉と訴訟
赤い本の基準を前提に、職業上の具体的な支障を示して労働能力喪失率の上積みを求め、将来の再置換手術の費用についても併せて請求します。
おわりに

関節の機能障害は、数字の世界です。健側との比較で何パーセントか、角度計で何度か。その数値が等級を決め、等級が賠償額を決めます。
だからこそ、測定の方法と記録の仕方が決定的に重要になります。そして、測り直しは原則としてできません。後遺障害診断書を書いてもらう前が、勝負どころです。
症状固定を打診されたら、診断書を書いてもらう前に、一度ご相談ください。弁護士費用特約をご利用いただける場合はご自己負担なく、特約がない場合も原則として着手金無料で対応しております。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭
交通事故
弁護士登録後、交通事故による後遺障害・慰謝料増額・保険会社との示談交渉など多数の事案を担当。不当要求防止責任者講習の講師として培った毅然とした交渉力を武器に、保険会社との粘り強い折衝を得意とする。交通事故問題について、テレビ朝日「グッド!モーニング」出演歴があり、また中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。








