【交通事故】重度後遺障害で見落とされやすい損害項目|家屋改造費・装具費・付添費を弁護士が解説

重い後遺障害が残った事案では、治療費・休業損害・慰謝料・逸失利益といった主要な項目に目が向きがちです。しかし実際には、それ以外にも請求できる損害項目が数多く存在します。

これらは、被害者側から具体的に主張し、金額を裏づける資料を提出しなければ、保険会社が自ら提示してくることはまずありません。請求しなければ、そのまま支払われずに終わってしまいます。

本記事では、重傷事案で見落とされやすい損害項目を、赤い本の基準と実際の裁判例に沿って、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

入院中・通院中に発生する損害

入院中・通院中に発生する損害

治療費・症状固定後の治療費

治療費は実費全額が原則ですが、注意が必要なのは自由診療の単価です。健康保険を使わない自由診療の場合、一点二〇円、二五円といった高額の単価が設定されることがあり、保険会社が支払いを拒むことがあります。

裁判例では、一点一五円程度を相当とするものが多くみられます。重傷で治療が長期化する見込みがある場合には、早い段階で健康保険や労災保険に切り替えておくことで、過失相殺がある事案でも手取り額を大きく増やすことができます。

また、症状固定後の治療費であっても、症状の悪化を防ぐために必要であると認められれば、損害として認められます。リハビリの継続、疼痛緩和のための投薬、定期的な画像検査などが典型です。裁判例には、症状固定後もリハビリを継続する必要があったとして、リハビリ等費用と通院交通費について月額平均七八一八円で平均余命まで七年間、合計五四万円余を認めたものがあります。

入院付添費

医師の指示または受傷の程度、被害者の年齢等により必要があれば、付添費が損害として認められます。赤い本の基準では、職業付添人については実費全額、近親者付添人については一日につき六五〇〇円が目安とされています。

症状の程度により、また被害者が幼児・児童である場合には、一割から三割の範囲で増額が考慮されます。完全看護の病院であっても、意識障害がある場合や声かけが必要な場合には付添いの必要性が認められます。

通院付添費

一人では通院できない場合、通院付添費として一日につき三三〇〇円が目安とされています。年齢や後遺障害の程度によっては、これを上回る金額が認められた例もあります。

症状固定までの自宅付添費

退院後、症状固定までの間に自宅での介助が必要であった場合には、自宅付添費が認められます。裁判例には、頸椎カラーを装着していた小学生について、通院日は日額三三〇〇円、その余の日は日額三〇〇〇円を認めたものがあります。

また、脊柱変形等により常に監視と介助が必要な状態になった高齢の被害者について、症状固定までの自宅等付添費として日額一〇〇〇円、二九二日分を認めた例もあります。

近親者が仕事を休んだ場合

ご家族が付添いのために仕事を休んだ場合、その減収分が損害として認められることがあります。付添費の日額を超える減収が生じたときは、実際の減収額をもって損害とする裁判例もあります。

裁判例には、通院付添いにより母親が欠勤・遅刻・早退を余儀なくされた事案で、付添費とは別に休業相当損害金を認めたものがあります。給与明細や勤務表で減収の事実を示せるようにしておいてください。

入院雑費

入院中の日用品費、通信費、家族の見舞いのための交通費などをまとめて、一日につき一五〇〇円が目安とされています。領収書がなくても定額で認められますので、入院日数を確認して必ず請求してください。

このほか、貸しおむつ代など、定額に含まれない実費が別途認められた裁判例もあります。

通院交通費・宿泊費

公共交通機関の運賃のほか、症状によりタクシーの利用が必要と認められれば、タクシー代の実費も損害となります。自家用車を使用した場合はガソリン代(一キロメートルあたり一五円が目安)、駐車場代、高速道路料金が対象です。

遠方の専門病院に通う場合には、付添いのご家族の交通費や宿泊費が認められることもあります。

症状固定後に発生する損害

症状固定後に発生する損害

将来の手術費・治療費

症状固定後であっても、将来の手術や治療が確実に見込まれる場合には、その費用を請求できます。人工関節の再置換、抜釘手術、瘢痕形成術などが典型です。

裁判例には、脊髄損傷の被害者について、廃用による身体拘縮に対するマッサージ費として月額一〇万円余を平均余命まで認め、合計一三四八万円余を認容したものがあります。また、事故による外傷の影響で腹部膨満が続き、将来にわたり腹部のマッサージを受ける必要があるとして、将来マッサージ費用四二六万円余を認めた例もあります。

将来介護費

重度後遺障害の事案で最も金額が大きくなるのが将来介護費です。赤い本の基準では、医師の指示または症状の程度により必要があれば、職業付添人は実費全額、近親者付添人は一日につき八〇〇〇円とされ、具体的看護の状況により増減することがあるとされています。

実際の裁判例は、この目安を大きく上回る金額を認めています。遷延性意識障害の事案で、在宅介護開始から母が六七歳に達するまでの九年間は近親者付添費と職業介護人費用を合わせて日額一万八〇〇〇円、その後平均余命までの四六年間は職業介護人二名体制で日額二万八〇〇〇円とし、総額一億四四五六万円余を認めた例があります。

また、就業している母が六七歳までの二〇年間は、日中は職業付添人、夜間は母親が介護するという前提で、職業介護人日額二万円、近親者付添費は夜間五〇〇〇円・全日一万円とし、母親が六七歳以降の三七年間は職業付添人日額二万五〇〇〇円として、総額一億五九〇三万円を認めた裁判例もあります。

介護者の年齢、介護の実態、必要な時間数を具体的に立証できるかどうかで、結論が大きく変わります。

装具・器具購入費

車椅子、電動ベッド、褥瘡予防マット、座位保持装置、義肢、義眼、義歯、歩行器、リフト、自己導尿用カテーテルなど、必要な装具・器具の購入費は損害となります。

重要なのは、これらに耐用年数があることです。平均余命までの買替回数を算出し、将来分をまとめて請求します。赤い本にも義歯・義眼・義手・義足等の交換費用の計算例が掲載されています。

家屋改造費

在宅での生活を可能にするための住宅改造費は、損害として認められます。段差の解消、廊下・出入口の拡幅、浴室・トイレの改造、手すりの設置、昇降機やリフトの設置などが対象です。

第二級以上の重度後遺障害の事案では、部分改造では対応できず、建替えに相当する費用が認められた例もあります。賃貸住宅にお住まいの場合には、転居費用や家賃の差額が認められた裁判例もあります。

自動車改造費

車椅子のまま乗降できる福祉車両への改造費、手動運転装置の取付費用などが対象です。車両にも耐用年数がありますので、将来の買替えを前提とした請求も検討します。

介護施設関係費用・自宅介護関係費用

施設に入所する場合の入所費用、在宅介護に移行する場合の訪問看護・訪問介護の費用も損害となります。公的介護保険でまかなわれる部分との調整が問題になりますが、介護保険の給付を受けてもなお自己負担が生じる部分は請求できます。

葬儀関係費用と死亡事案の特則

なお、重傷を負われた方が後に亡くなられた場合には、葬儀関係費用が損害となります。赤い本の基準では原則として一五〇万円程度とされていますが、裁判例には一八〇万円、二〇〇万円、二五〇万円、三〇〇万円を認めたものもあります。

仏壇・仏具の購入費や墓碑建立費が別途認められた例、遺体搬送料や遺体処置費が別途認められた例もあります。

また、後遺障害を負った被害者がその後に死亡した場合、死亡後の期間について逸失利益や将来介護費を請求できるかが問題になります。事故と死亡との間に因果関係がなければ、原則として死亡後の介護費は認められませんが、逸失利益については症状固定時の状態を前提に算定するという考え方が判例上確立しています。

手続に関する費用

手続に関する費用

後見等関係費用

判断能力を欠く状態になった場合、示談や訴訟を行うためには成年後見人の選任が必要です。赤い本も後見等関係費用を独立の項目として掲げており、申立費用のほか、将来分を含めた後見人報酬が認められた裁判例があります。

後見開始には数か月を要しますので、早めに家庭裁判所への申立てを準備してください。

損害賠償請求関係費用

診断書の文書料、診療記録の開示費用、画像の複写費用、印鑑証明書や住民票の取得費用、交通事故証明書の発行手数料などは、損害賠償請求関係費用として認められます。

また、訴訟になった場合の弁護士費用については、認容額のおおむね一割が損害として上乗せされるのが実務の取扱いです。

学生・幼児の場合に特有の損害

学生・幼児の場合に特有の損害

学習費・保育費

進級が遅れた場合の授業料や補習費、家庭教師や塾の費用、受傷によって無駄になった支払済みの教育費や通学定期代が認められた裁判例があります。

また、保育料、通学付添費、通学のために賃借したマンションの賃料などが認められた例もあります。

復学のために要した費用

復学のための費用、家族の監護料が認められた例もあります。お子様が被害者の場合には、学校生活に関する支出を漏れなく記録しておいてください。

請求漏れを防ぐために

請求漏れを防ぐために

領収書はすべて保管する

おむつ代、消毒用品、通院のタクシー代、装具の購入費、駐車場代。金額が小さくても、長期にわたれば相当な額になります。領収書は必ず保管し、日付と内容をメモしておいてください。

見積書を複数社から取得する

家屋改造費や自動車改造費は、金額が大きいだけに争いになります。複数社から見積りを取り、なぜその改造が必要なのかを、理学療法士やケアマネジャーの意見書で裏づけておくと説得力が増します。

一度示談すると追加請求はできない

示談書には通常、「本件に関し、当事者間に他に何らの債権債務がないことを相互に確認する」という清算条項が入ります。これに署名をすると、後から請求漏れに気づいても、原則として追加請求はできません。

署名の前に、請求漏れがないかを必ず確認してください。

なお、生活保護の医療扶助・介護扶助、健康保険の給付、労災保険の給付など、他の制度から填補を受けた部分は損益相殺の対象になります。何が控除され何が控除されないのかを整理したうえで請求を組み立てることが、手取り額を最大化する鍵になります。

弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリット

項目を網羅した請求書を作成できる

どの項目が認められ、どの程度の金額が相場なのかは、裁判例の蓄積によって決まります。赤い本と裁判例に照らして、請求できる項目を漏れなく積み上げます。

必要性を立証できる

家屋改造や装具の購入は、「必要だから」というだけでは足りません。医師の指示書、理学療法士の評価、ケアマネジャーの意見書といった資料を揃え、必要性と相当性を立証します。

当事務所のサポート内容

当事務所のサポート内容

①損害項目の洗い出し

治療開始から症状固定までの全期間について、診療記録と領収書をもとに損害項目を洗い出し、一覧表にして請求します。

②将来分の計算書の作成

将来介護費、将来治療費、装具の買替費用について、耐用年数と平均余命を踏まえた計算書を作成します。

③必要性・相当性の立証

医師の指示書、理学療法士の評価、ケアマネジャーの意見書、複数社の見積書を揃え、改造や購入の必要性と相当性を立証します。

④示談交渉と訴訟

保険会社の提示額と当方の算定額を項目ごとに対比し、どこに差があるのかをご説明したうえで、交渉方針を決めていきます。

おわりに

おわりに

重度後遺障害の事案では、慰謝料と逸失利益だけで賠償額の大半が決まると思われがちです。しかし実際には、将来介護費、家屋改造費、装具の買替費用といった項目が、合計で数千万円に達することも珍しくありません。

そして、これらは請求しなければ支払われません。保険会社の提示額が「思っていたより少ない」と感じたなら、それは項目が漏れている可能性があります。

示談書に署名をする前に、一度ご相談ください。弁護士費用特約をご利用いただける場合はご自己負担なく、特約がない場合も原則として着手金無料で対応しております。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

交通事故

弁護士登録後、交通事故による後遺障害・慰謝料増額・保険会社との示談交渉など多数の事案を担当。不当要求防止責任者講習の講師として培った毅然とした交渉力を武器に、保険会社との粘り強い折衝を得意とする。交通事故問題について、テレビ朝日「グッド!モーニング」出演歴があり、また中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。