交通事故の被害に遭った際、車両に生じた損傷について、どこまで損害賠償の対象となるのか。これは実務において頻繁に争点となる問題です。本ページでは、裁判例や判例の傾向をふまえ、物的損害のうち「車両修理費」を中心に解説します。
物的損害とは
物的損害は、車両の損傷のほか、車両に積載していた物品が破損した場合や事故により建物や電柱等を損傷した場合など様々なケースがあります。車両損害としては、主なものとして、車両修理費等、代車使用料、休車損害、評価損等があります。レッカー代等について相当の範囲で損害と認められます。
•車両修理費
•代車費用
•休車損害
•評価損(原則として修理が困難な場合)
•レッカー費用 など
修理が可能な場合について
修理費の協定について
修理が可能な場合、修理実費が損害として認められます。
保険会社に修理費を支払ってもらうときは、「協定」(きょうてい)という概念が重要となります。修理費の算定にあたっては、一般的に、被害車両の修理費は、通常「協定(きょうてい)」という流れを経て決定されます。
協定は、簡単にいうと、保険会社と修理業者が修理見積額の妥当性について協議し、相互に金額を確認・合意する作業を指します。
たとえば、修理業者が100万円の見積書を作成しても、保険会社がその金額を無条件に認めるわけではありません。保険会社側は、事故状況や損傷の範囲、作業内容、部品の単価・工賃などを精査し、必要に応じて減額を求めることがあります。修理業者はこれに応じて説明や調整を行い、最終的に合意された修理金額が「協定金額」となります。
被害者は、その金額で修理をして、保険会社は、修理工場に、その金額を払うということになります。
ただし、協定されたからといって、必ずしも賠償義務者に対する法的拘束力があるわけではないことには注意してください。また、被害者が自費で修理した場合や、協定が成立しない場合には、修理費の相当性を証明するための資料(写真、見積書、損傷部位の説明等)が必要になることがあります。
したがって、被害者としては、修理の前に協定を済ませることが望ましく、弁護士としても保険会社との間で協定の有無・内容を確認した上で交渉に望むことがほとんどです。
修理をしない場合
修理が可能であって、修理していなくとも、修理費相当額は損害として認められています。修理費は修理をしたことを損害とするのではなく、損傷による原状回復の費用が損害と考えられるからである。
例えば協定で、100万円の修理として認められた場合、100万円を受取って、実際に修理しないで車は廃車にするということお可能です。
全塗装か部分塗装かの論点
損傷箇所の部分塗装で足りるにもかかわらず、色ムラを理由に全塗装を行った場合、その費用全額が認められるとは限りません。車を大切に乗ってきたオーナーからすると納得のいかない事ですが、実際に、裁判例では「部分塗装が原則」であり、全塗装が必要とされる特段の事情が求められます。
例えば、
②自動車が高級車で、外観に価値の比重が大きい
③全塗装と部分塗装の費用差が少ない
【部分塗装が原則として、全塗装を否定した裁判例】
1 名古屋地判平成13年3月30日(自保1406・2)
【判決要旨】
①1年3か月前に約451万円で購入し、250万円の補修を行なう初度登録6年の
ベンツが損壊した事案で、全塗装での修理費請求を否認し、部分塗装の修理費
340万円を認定した。
②事故で損傷し、340万円の修理費を要したベンツが後日盗難に遭い、契約する
保険会社から時価額相当の保険金が支払われた事案で、右保険金が支払われている
からと言って、事後の事情により評価損が不発生となることはないと35万円の
評価損が認められた。
③修理工場での修理期間中、同工場より代車を貸与し支払った300万円を代車費用
請求する事案で、同工場での作成書類や業者登録が判然とせず、代車費用も確定
申告に計上していないこと等から、30日間分の代車費用60万円を損害と認めた。
「右認定の事実によると、第2車両の修理につき全塗装の必要性があることはうかが
われるものの、これによった場合どの程度の美観上の相違が出るかまでは本件証拠上
明らかとはいえず、したがって本件においては全塗装の必要性が立証されたとまでは
いうことができない。」
2 京都地判平成14年8月29日 (自保1488・18)
【判決要旨】
①事故車を修理後も使用する場合、「機能上ないし外観上の欠陥や耐用年数の短縮な
ど、不具合を理由をする場合に限り、評価損が認められる」とし、初度登録11年
の本件ロールスロイスの評価損を否認した。
②塗装は「色むらがでるか、損傷の範囲、車両のグレード、使用年数、保存状況など
で判断する」とし、上記ロールスロイスには「塗装割れなどの損傷があり」「顕著
な色むらが出て高級感が損なわれることをも肯認するに足りる専門的知見がない」
ことで部分塗装の修理を認めた。
「部分塗装によると被害車両の外観上顕著な色むらが出て高級感が損なわれることを肯認するに足りる専門的知見もないことからすれば、被害車両につき全塗装が社会的に相当であったとまではいえず、上記主張は採用できない。」
【全塗装が認められた裁判例】
岡山地裁津山支部平成7年4月25日
【判決要旨】
①ポルシェの損壊で全塗装が認められた事例。
②ポルシェの格落損につき、事故前に750万円で売買約束があったことを考慮する
ことを主張するも、被害車両の損傷度合いや市場性等から修理代の4割
(133万余円)が相当と認めた。
「全塗装の点について検討するに、右一の1及び2の各事実を総合する
と、被害車両は高額な外国製の車であり、初年度登録から本件事故まで3年余りを経
過していたこと、被害車両は本件事故により前部を中心として大きな損傷を受けたこ
とが認められ、これらの事実に照らすと、部分塗装によって事故による修理がなされ
たことが分からないように完全に復元することは困難であり、反訴原告は反訴被告に
対し、本件事故による損害として全塗装に要した費用を請求できるというべきである」
修理が不可能な場合(全損)
全損について
交通事故により被害車両の損傷が激しく、修理が現実的に困難または不可能な場合には、「全損」として処理されます。また、修理額が時価額を超える場合も全損となります。
この場合、修理費相当額ではなく、事故時の車両の時価額(=評価額)が損害として認められるのが原則です。
全損には2つのタイプがあるということです。
1. 物理的全損
車両が激しく破損し、構造的に修理が不可能な状態。例えば、フレームが大きく歪み、メーカーや専門業者でも修復できない場合が該当します。
2. 経済的全損
物理的には修理可能でも、修理費用が事故当時の時価額を上回る場合。費用対効果からして修理するのが非合理であると評価されるため、損害額は時価額にとどまります。
実務では、修理見積額+買替諸費用の合計が時価額を超える場合、経済的全損と認定されます。
全損の場合の評価手法
時価額は、原則として車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場で取得し得る価格のことをいいます。
最判昭49・4・15は、いわゆる減価償却による定率法または定額法によることは、加害者及び被害者がこれに異議がない等の特段の事情のない限り、許されないと述べました。
価格の認定にあたっては、以下のような指標が用いられます
•「レッドブック」(自動車価格月報、オートガイド社)
•「イエローブック」(中古車価格ガイドブック、日本自動車査定協会)
•オークション相場、インターネットでの価格
•専門業者の鑑定書、評価報告書
※いずれも「事故直前の車両の使用状況(年式・走行距離・整備状態)」を考慮し、個別に補正が必要です。
実務でも、インターネット検索により、中古車販売情報を参照することが多いです。
被害者が車両を売却した場合
事故車両を売却して代金を得ている場合には、時価額から売却額を差し引いた差額が損害として評価されます。つまり、
【時価額】-【売却金額】=認定される損害額
となります。この点を見落とすと過大請求となり、相手保険会社から否認されるため注意が必要です。
車両を売却した場合
被害者が被害車両を売却してその代金を得ている場合には、中古市場価格から売却で得た額全体を引いた金額が残りの価額として認められます。
車両の買替えのために必要となる諸手続費用について
車両の買替えのために必要となる諸手続費用については、相当な範囲で損害として認められます。
・廃車手続費用
・登録関連費用
・納車関連費用
・車庫証明費用 など
一方、自動車税や自賠責保険料の「未経過分」は、還付制度が設けられていることから、原則として損害に含まれません(ただし還付されない場合は損害となりうる)。
なお、交通事故により被害者が脚に後遺障害を負った場合に被害者が移動するために福祉車両が必要である場合には、車両改造費や車両購入費が認められることがあります。
交通事故を弁護士に依頼するメリット
物損は、意外と保険会社と争いになることがあります。物損と一緒にケガをしている方もいらっしゃるかと思います。そうすると、慰謝料や後遺障害でも争いになります。
弁護士に依頼するのとしないのでは、数十万~事案によって数千万円の違いがでる可能性もあります(実際に当事務所でありました)。
弁護士に依頼をすることによって、保険会社との交渉や手続、裁判を代理で行うことができます。
また、弁護士特約に加入されている場合は、弁護士費用が原則として300万円まで保険ででます。
弁護士特約に加入している場合は、法律相談費用も特約ででますので、まずは相談ください。
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弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
交通事故においても、専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。
入院中でお悩みの方や、被害者のご家族の方に適切なアドバイスもできるかと存じますので、まずは、一度お気軽にご相談ください。