自転車に乗ったまま歩行者や車との交通事故に遭うことは珍しくありません。
自転車の交通事故では横断歩道やそれ以外の場所によって過失割合は変わってきます。
この記事では主に、自転車の交通事故における過失割合について弁護士がわかりやすく解説します。

1 自転車の道路交通法上の位置づけ

1 自転車の道路交通法上の位置づけ

まず、自転車は道路交通法上(法2条1項11号)、車両(同項8号)として扱われていて、交差点における車両等との関係等(法36条)、車両等の灯火(法52条)、酒気帯び運転等の禁止(法65条)等の「車両」に関する規定の適用があるため四輪車や単車と同様の規制に服することになります。
自転車に乗ったままであれば、当然、「自転車」であるので、「車両」として扱われることになります。他方、自転車から降りて自転車を引いている場合には、「歩行者」として扱われることになります。

2 自転車と歩行者の交通事故

2 自転車と歩行者の交通事故

自転車と歩行者の交通事故における過失割合について見ていきましょう。

(1)横断歩道における事故

青信号で横断歩道を横断中の歩行者と赤信号で進入してきた自転車が衝突した事故では、歩行者の過失は基本的に0です。
同じく自転車が赤信号で進入する場合でも、歩行者が黄色信号で横断開始したり、赤信号で横断開始したりした場合は、歩行者の過失が15%~25%認められることがあります。
さらに、歩行者が赤信号で横断歩道を横断中に、黄信号で直進の自転車と衝突した場合には歩行者側の過失のほうが大きくなる場合があります。赤信号で進行する(信号無視)ということは、それだけ重大視されるということです。

(2)過失割合を判断する要素

自転車と歩行者の事故について、道路交通法は、通行場所つまり事故発生場所に応じてそれぞれに異なる規制をしています。また、それぞれの進行方向によって相手方当事者からの発見可能性が違ってくることも考慮されています。

ア 歩道上の事故かどうか

自転車と歩行者の事故での過失割合を考えるにあたってはまず、歩道上の事故か、そうではない場所での事故かに大きく分類し、歩道上の事故であれば原則として歩行者の過失は0と考えられています。なぜならば、歩道上を通行する自転車が道交法上の徐行義務や一時停止義務をきちんと守っていれば事故は発生しないと考えられているからです。
もっとも、後述のように歩行者に事故発生について信義則上の義務違反が相当高度に認められるような場合には、歩行者にある程度の過失を認められることになります。

イ 双方の進行方向

次に、歩道上の事故の中でも、相互の進行方向、例えば対向方向に進行する正面衝突なのか、同一方向に進行する追突型か、直進進行中の自転車と交差方向から進行してきた歩行者との出合がしらの事故かに分類されます。
正面衝突の場合の裁判例をみるとほとんどの場合歩行者の過失は否定されています。歩行者が後方から自転車に追突された追突型の場合に、歩行者の過失を0%とすべきことに争いはありません。出合がしらの事故の場合は、歩行者にも過失が肯定されている裁判例があります。歩行者の進入がおよそ予想できない状況(例えば、歩行者が上空から歩道上に飛び出してきた等)の場合などには、歩行者にも相応の注意義務が課されるのは当然と考えられるからです。

ウ 路側帯上の事故

さらに、路側帯上の事故が考えられます。路側帯は歩道とは異なり歩行者と自転車の通行が混在することが道路交通法上当然に予定されているため、歩行者も自転車の動静を注視して安全を確認すべきであるため基本的過失割合を5~10%とすべきとの考え方があります。
一方で、路側帯はもともと歩行者の安全を図るために設けられるべきもの等の理由から歩行者の過失を認めるべきではないとの考え方もあります。
このように、路側帯上の事故については、考えが分かれるところがありますので、ケースバイケースで判断することになります。

3 自転車と車の交通事故

3 自転車と車の交通事故

次に、自転車と四輪車との事故について見ていきましょう。

1で述べましたように、自転車は道路交通法上「車両」にあたりますので、自転車と車の事故は車両同士の事故ということになります。
信号のない交差点でかつ同幅員の道路において自転車と四輪車が衝突した場合、基本的に過失割合は車:自転車=80:20となります。

他方、信号のある交差点において自転車が青信号で横断歩道上を進行し、車が赤信号を無視して衝突した事故の場合、基本的に自転車の過失は0です。
ただ、自転車と歩行者との事故と同様、自転車が黄色信号や赤信号で進行した場合、自転車には1割、2割、場合によってはそれ以上の過失が認められることもあります。

自転車に乗るのに免許など不要ですが、前述のとおり道路交通法上、自転車は四輪車や単車と同様「車両」として扱われることに留意することが必要です。

4 自転車による交通事故の過失割合が修正される要素

4 自転車による交通事故の過失割合が修正される要素

自転車と車の事故の場合、被害者の年齢、事故の場所や時間帯、それぞれの道路交通法違反の内容や程度などによって、過失割合が修正(加算・減算)されます。
具体的にどのようなケースで修正されるのか見ていきましょう。

(1)児童等、高齢者

「児童等」とは、13歳未満の者、「高齢者」とはおおむね65歳以上の者のことを言います。
運動能力や判断能力が通常の人よりも劣る人を保護するため、自転車の運転者が、児童等や高齢者だった場合は、自転車の過失割合を減算します。

(2)幹線道路

幹線道路とは、道幅がおおむね14m以上(片側2車線以上)で、車両が高速で走行し、通行量の多い国道などが想定されています。
「道路外出入車と直進車の事故」のケースで、道路外から幹線道路に出入りする場合は、通常の道路に出入りするよりも強い注意が求められるため、過失割合が加算されます。

(3)見とおしがきく交差点

信号機が設置されていない交差点での出合い頭の事故は、見とおしがきかない交差点を前提としています。
一方が明らかに広い道路の交差点に、自転車が狭路から進入したケースで、見とおしがきく交差点の場合は、自転車の過失割合が加算されます。

(4)自転車横断帯通行

車が自転車横断帯に接近する場合は、特別の注意義務が課せられています。
そのため、自転車が自転車横断帯やそれに隣接する横断歩道、またはその付近(自転車横断帯の端から外側におおむね1m~2m以内)の場所を通行中の事故の場合は、自転車の過失割合が減算されます。

(5)横断歩道通行

自転車が、自転車横断帯に隣接していない横断歩道を通行している場合です。
車には、横断歩道に接近する場合は特別の注意義務が課せられていますので、この場合の事故の自転車の過失割合は減算されます。

(6)夜間

夜間とは、日没から日出までの時間のことです。
夜間は、自転車からはヘッドライトを付けた車を発見しやすいのに対し、車からは自転車を発見しにくいため、夜間の事故は自転車の過失割合が加算されます。

(7)右折禁止違反

道路標識等により右折が禁止されている交差点における右折のことです。
この場合、右折車の過失割合が加算されます。

(8)徐行なし

徐行とは、車両が直ちに停止することができるような速度で進行することです。
右左折車が徐行しなかった場合は、過失割合が加算されます。

(9)明らかな先入

相手の車よりも、明らかに先に交差点に進入しており、相手の車が衝突回避措置をとるのが容易であった場合は、過失割合が減算されます。

(10)早回り右折、大回り右折、直近右折

いずれも危険な右折方法であり、右折車の過失割合が加算されます。

(11)既右折

直進車が交差点に進入する時点で、右折車が右折を完了しているか、それに近い状態にあることです。
この場合は、相手の車が衝突回避措置をとりやすくなりますので、右折車の過失割合が減算されます。

(12)合図なし

右左折や転回、停止、徐行、後退などをする際に、方向指示器などの合図をしなかった車は、過失割合が加算されます。

(13)自転車の右側通行

自転車も、原則として道路の左側部分を通行しなければなりません。
これに違反して自転車が右側通行をし、かつ、車の左方から交差点に進入した場合については、事故回避が困難になることがあるため、自転車の過失割合が加算されます。

(14)自転車の著しい過失・重過失

自転車の著しい過失(わき見運転などの著しい前方不注視、携帯電話などでの通話や画像注視、酒気帯び運転、2人乗り、無灯火、並進、片手運転など)や、重過失(酒酔い運転、制動装置不良など)があると、過失割合が加算されます。

(15)車の著しい過失・重過失

自転車の著しい過失(わき見運転などの著しい前方不注視、著しいハンドル・ブレーキ操作不適切、携帯電話などでの通話や画像注視、おおむね時速15㎞以上30㎞未満の速度違反、酒気帯び運転など)や、重過失(酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、おおむね時速30㎞以上の速度違反、過労・病気・薬物の影響などにより正常な運転ができないおそれがあるなど)があると、過失割合が加算されます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 権田 健一郎
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