関節の機能障害(交通事故による可動域制限)について

交通事故に遭って、骨折や靱帯・神経損傷をしてしまった場合、当該部位の「可動域制限」が残る場合があります。可動域制限は、自動値で図るのか他動値で図るのか等、後遺障害申請のルールがあるのでそれを解説します。

関節の可動域測定について

関節の可動域測定について

交通事故に遭って、骨折や靱帯・神経損傷をしてしまった場合、当該部位の「可動域制限」が残る場合があります。可動域制限とは、本来、健常な方であれば稼働する関節の領域を言い、それが制限されることを言います。例えば、いままでは90度右を向けたのに、首がまわらなくなった、肩が回らなくなった等です。

可動域制限は、運動障害・機能障害とも言われ、「後遺障害」として認定されます。
ただし、全ての可動域制限が後遺障害になるわけではなく、自賠責保険の審査基準である参考数値を超えた場合に、後遺障害として評価され認められるという場合があります。

関節の機能障害(交通事故による可動域制限)について

自動値か他動値かその違い

自動値か他動値かその違い

関節の可動域測定とは、四肢および躯幹の各々の関節を「他動的」に連動させた場合の可動範囲の測定のことです。
関節の可動域の測定方法には2種類あります。それは、自動値と他動値です。

自動値は、対象者が、自力で関節を動かした場合の可動域のことをいいます。
他動値は、他人(主治医など)が、手を添えて関節を動かした場合のことを言います。

関節可動域の測定について、自動値と他動値の違いは、要は、自力で動かすか他人が動かすかという違いになります。

そして、関節可動域の測定は、後遺障害診断をするにあたっては、原則として他動値で判断することになります。

※ただし、神経麻痺が原因の機能障害がある場合は、他人が動かしても正常に動いてしまうので、自動値によって判断されます。

可動域制限の考え方

可動域制限は、体の左右で比較ができる場合、負傷したほう(患側)と、健康なほう(健側)を比べることになります。
比較ができない場合や、比較が相当ではない場合は、参考可動域を基準とします。
※比較できない場合としては、左右ともケガをしてとか、もともと障害がある場合等

例えば、肩関節・ひじ関節・手の関節・股関節・ひざ関節・足関節などは、左右を比較して、可動域が2分の1以下なら『著しい機能障害』として10級の認定になり、4分の3以下なら『機能障害』として12級の認定となります。

よく受ける質問として、「違和感が残った状態なのですが、これは後遺障害として認められますか?」というものがあります。
しかし、多少関節が曲がりにくくなったとか、何か違和感がある、動きが悪いという程度だけでは、上で説明したとおり、機能障害としては認められないため注意が必要です。
実際にご説明をすると、「事故前と比べておかしいことは明らかなのに何故認められないのですか?」と、おっしゃる方も多いです。

しかし、自賠責認定基準がそうなっている以上、基準に該当しない場合は「非該当」と扱われてしまうのはやむを得ないので、基準を知りつつ、後遺障害申請に備えることが重要です。
また、可動域制限として後遺障害が認められなくとも、「神経症状」として、痛みを認定してもらえる可能性もあるので、あきらめずに申請をすることも大事です。それにより、適切な等級の獲得を目指すべきです。

〈参考可動域とは〉
日本整形外科学会身体障害委員会と日本リハビリテーション医学会評価基準委員会が作成した、「関節可動域表示ならびに測定方法」に記載のある可動域。
※以下の通り、最近改訂あり。

可動域制限測定の注意点

交通事故の後遺障害診断の場合は、医師に測定や検査を任せることになりますが、注意点があります。
測定は、上の「関節可動域表示ならびに測定方法」に従いますが、角度計を使用して、5度刻みで測定(5度単位で切り上げて計算))することになっています。しかし、医師によっては目視でやる方も多いと聞きます。その目視が誤っていることによって、後遺障害の等級が変わってしまうので、医師の計り方を見ておく必要があります。

可動域運動の種類

以下のような運動によって、関節ごとに可動域を判断します。

① 屈曲:関節の角度を小さくする運動(前屈)
② 伸展:関節の角度を大きくする運動(後屈)
③ 外転:体肢を身体の中心面から遠ざける運動
④ 内転:体肢を身体の中心面に近づける運動
⑤ 外旋:体の前方に向かうある部分を外の方へ向ける運動
⑥ 内旋:体の前方に向かうある部分を内の方へ向ける運動
⑦ 回外:前腕軸を中心にして,掌を上に向ける運動
⑧ 回内:前腕軸を中心にして,掌を下に向ける運動

※屈曲(おじぎをするような運動)60度+後屈(後ろに首を反らして上を向く動作)50度
合計110度
※回旋(首を回す運動)左右に各60度(左回旋・右回旋)合計120度
※側屈(首をかしげるような動作)左右に各50度 合計100度

関節可動域表示ならびに測定法の改訂

関節可動域表示ならびに測定法の改訂

2022年4月、「関節可動域表示ならびに測定法について」、実に1995年2月ぶりい、改訂がされました。この改訂は、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会、日本足の外科学会による検討を経ての改訂です。

詳しくはこちら
https://www.jarm.or.jp/member/kadou.html

この改訂は、交通事故で、後遺障害診断書を作成する場合に影響があります。医師も測定をする場合は、この基準が頭に入っていますし、自賠責保険の後遺障害審査でも、新たな基準に従うものと考えられます。

主な改訂点は以下の通りです。
1.足関節・足部における「外がえしと内がえし」および「回外と回内」の定義
2.足関節・足部に関する矢状面の運動の用語
3.足関節・足部の内転・外転運動の基本軸と移動軸

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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