
交通事故の被害に遭われた際、転倒してとっさに手をついたり、バイクや自転車のハンドルを握ったまま衝突したりすることで、「手首を骨折する」ケースは非常に多く見られます。
事故による激しい痛みや不自由な生活の中で、被害者様やご家族様は「この手首骨折は、全治何ヶ月かかるのだろうか」「仕事や家事にいつ復帰できるのか」「後遺症は残らないか」といった、大きな不安を抱えていらっしゃることと存じます。
手首の骨折と一口に言っても、手首の親指側の太い骨が折れる「橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)」 や、非常に見逃されやすく治療が難しい「舟状骨骨折(しゅうじょうこつこっせつ)」 など、様々な種類があります。
これらの骨折は、単に「全治まで安静にする」だけでは済まないことが多く、その後の生活に重大な影響を及ぼす「後遺障害」が残る可能性も低くありません。
しかし、交通事故の賠償実務は非常に複雑です。 特に治療が長引くと、加害者側の保険会社から「全治したでしょうから」と治療費の支払いを打ち切られそうになったり、後遺症が残ったにもかかわらず、本来受け取れるはずの慰謝料よりも大幅に低い金額を提示されたりする危険性があります。
本記事では、交通事故による手首骨折でお悩みの方のために、怪我の種類、全治までの治療期間の目安、認定されうる後遺障害、そして弁護士基準による適正な慰謝料額について、交通事故チームの弁護士が詳しく解説します。
交通事故における手首骨折の種類

交通事故で手をついた際に発生しやすい手首骨折には、代表的に以下の2つがあります。適切な治療や後遺障害の認定を受けるために、ご自身の怪我の特性を知っておくことが重要です。
一つは「橈骨遠位端骨折」です。 これは前腕にある2本の骨のうち、親指側にある太い骨(橈骨)が、手首に近い部分で折れる骨折です。 転倒して手をついた際に発生する最も典型的な骨折の一つで、高齢者だけでなく、交通事故の強い衝撃でも生じます。骨が手の甲側にずれる「コレス骨折」 など、骨のずれ方によっていくつかの種類に分類されます。
もう一つ、特に注意が必要なのが「舟状骨骨折」です。 これは手首に8つある小さな骨(手根骨)のうちの一つである舟状骨が折れるものです。この骨折が厄介なのは、事故直後のレントゲンでは骨折線が映りにくく、「異常なし」や「捻挫」と見逃されてしまうケースが非常に多い点です。
舟状骨は血流が乏しいという特性があり、骨折が見逃されたまま放置されたり、適切な固定がされなかったりすると、骨が癒合しない「偽関節(ぎかんせつ)」 という状態になりやすく、手首の痛みや機能障害といった深刻な後遺障害を残す危険性が高い骨折です。
手首骨折の「全治何ヶ月?」- 治療期間の目安

被害者様が最も気にされる「全治何ヶ月かかるのか」という点についてですが、これは骨折の状態(単なるヒビか、粉々になった粉砕骨折か )、治療方法(ギプス固定か、手術か)、そして被害者様の年齢やリハビリの状況によって大きく異なります。
骨のズレが少ない場合の「保存療法(ギプス固定)」では、一般的に4週間から6週間程度の固定が必要とされます。その後、ギプスを外し、固まった関節の動きを取り戻すためのリハビリテーションが開始されます。
骨のズレが大きい場合や、関節内に骨折が及んでいる場合、早期の社会復帰を望む場合などには、「手術療法(プレートやワイヤーによる内固定)」が選択されます。手術の場合は、術後の早い段階からリハビリを開始できるメリットがあります。
一般的に、骨が癒合するまでには少なくとも2〜3ヶ月を要し、リハビリを経て日常生活や仕事に大きな支障がなくなるまでの期間(いわゆる「全治」)を含めると、平均して3ヶ月から6ヶ月程度の治療期間となることが多いです。
ただし、これはあくまで目安です。特に「舟状骨骨折」の場合は、骨が非常につきにくいため、ギプス固定が数ヶ月に及んだり、手術(スクリュー固定や骨移植)を行っても癒合までに6ヶ月〜1年以上かかるケースも珍しくありません。
治療期間における注意点 - 保険会社との関係

交通事故の治療において、被害者様が知っておくべき重要な注意点があります。
まず、事故直後の検査です。前述の通り、特に手首の痛みが続く場合、レントゲンで「異常なし」と言われても安心できません。 舟状骨骨折などを疑い、必ず医師に症状を訴え続け、CTやMRIといった精密検査を受けるようにしてください。 この初期段階での画像所見が、後の後遺障害認定で決定的に重要になることがあります。
次に、保険会社による「治療費の打ち切り」です。 事故から3ヶ月や6ヶ月が経過すると、保険会社の担当者から「もう全治した頃でしょう」「そろそろ症状固定にしませんか」と、治療費の支払いを打ち切る旨の連絡が入ることがあります。
しかし、治療を終了するかどうか(症状固定)を判断するのは、保険会社ではなく、あなたの体を診察している主治医です。 まだ痛みがあり、医師が治療やリハビリの必要性を認めているにもかかわらず、保険会社の都合で治療を中断してはいけません。 このような打診があった場合は、すぐに弁護士に相談してください。弁護士が介入し、医学的見地から治療継続の必要性を主張することで、支払期間を延長できる可能性が高まります。
手首骨折で認定されうる後遺障害等級

医師から「症状固定」 の診断(これ以上治療を続けても大幅な改善は見込めない状態)を受けた後も、手首に痛みや動かしにくさが残ってしまった場合、その症状は「後遺障害」として、自賠責保険(損害保険料率算出機構)に等級認定の申請を行うことになります。
等級が認定されるかどうか、そして何級に認定されるかによって、後から説明する「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」の金額が数百万円、場合によっては数千万円も変わってきます。
手首骨折で残存する症状は、主に「機能障害」「神経障害」「変形障害」「偽関節」の観点から評価されます。
1. 機能障害(関節の動きが悪い) 手首の関節(手関節)の可動域(動かせる範囲)が、健康な側と比べて制限された場合に認定されます。
- 第10級10号: 「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
手首の可動域が、健康な側の1/2以下に制限された場合 などが該当します。
- 第12級6号: 「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」
手首の可動域が、健康な側の3/4以下に制限された場合 などが該当します。
2. 神経障害(痛みやしびれ) 骨折は治癒したものの、骨折部の痛みや、手先のしびれが残った場合に認定されます。
- 第12級13号: 「局部に頑固な神経症状を残すもの」
骨折の変形癒合などが画像(レントゲンやCT)で確認でき、その痛みの原因が医学的に「証明」できる場合に認定されます。
- 第14級9号: 「局部に神経症状を残すもの」
画像上は明確な異常がなくても、事故の状況や治療経過、症状の一貫性などから、その痛みの存在が医学的に「説明」可能な場合に認定されます。
3. 変形障害・偽関節(骨が正しくつかなかった) 橈骨や尺骨が変形して癒合した場合や、舟状骨骨折が癒合せず「偽関節」 となった場合に認定されます。
- 第7級9号: 「1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」
- 第8級8号: 「1上肢に偽関節を残すもの」
- 第12級8号: 「長管骨に変形を残すもの」 (橈骨などの変形癒合)
手首骨折で請求できる損害賠償(慰謝料など)

交通事故で手首を骨折した場合、加害者(側の保険会社)に対して請求できる損害賠償項目は多岐にわたります。
- 治療関係費: 治療費、入院費、通院交通費、装具代(サポーターなど)の実費です。
- 休業損害: お怪我で仕事を休んだことによる収入減です。 利き手の手首骨折の場合、デスクワーク、手作業、運転など、多くの仕事に支障が出るため、休業損害は重要な項目となります。主婦(主夫)の家事労働も休業損害として認められます。
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料):
- 入院や通院を強いられたことによる精神的苦痛に対する補償です。 この金額は、「全治何ヶ月」すなわち治療にかかった期間(入院期間・通院期間)を基礎として計算されます。
- 慰謝料の計算には「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」という3つの基準があります。 保険会社が提示してくるのは低い基準ですが、弁護士が交渉する際は、最も高額な「弁護士基準」で請求します。
- 骨折のような重傷の場合は、むちうち等より高額な慰謝料基準(赤い本・別表I)が適用されます。

●表の見方
- 入院のみの方は、「入院」欄の月に対応する金額(単位:万円)となります。
- 通院のみの方は、「通院」欄の月に対応する金額となります。
- 両方に該当する方は、「入院」欄にある入院期間と「通院」欄にある通院期間が交差する欄の金額となります。
【等級別】後遺障害慰謝料の相場(弁護士基準)
参考までに、手首の骨折で認定されうる等級の後遺障害慰謝料(弁護士基準)の相場をご紹介します。
※下記はあくまで目安です。任意保険会社の提示額は、これよりも大幅に低いことがほとんどです。
| 後遺障害等級 | 裁判基準 | 労働能力喪失率 |
|---|---|---|
| 第1級 | 2,800万円 | 100/100 |
| 第2級 | 2,370万円 | 100/100 |
| 第3級 | 1,990万円 | 100/100 |
| 第4級 | 1,670万円 | 92/100 |
| 第5級 | 1,400万円 | 79/100 |
| 第6級 | 1,180万円 | 67/100 |
| 第7級 | 1,000万円 | 56/100 |
| 第8級 | 830万円 | 45/100 |
| 第9級 | 690万円 | 35/100 |
| 第10級 | 550万円 | 27/100 |
| 第11級 | 420万円 | 20/100 |
| 第12級 | 290万円 | 14/100 |
| 第13級 | 180万円 | 9/100 |
| 第14級 | 110万円 | 5/100 |
逸失利益 – 将来の収入減に対する補償
将来得られるはずだったが、後遺障害のために得られなくなってしまった収入のことを「後遺障害逸失利益」といいます。専門用語で「得べかりし利益(うべかりし利益)」とも言います。
逸失利益は、基本的には1年あたりの基礎収入に、後遺障害によって労働能力を失ってしまうことになってしまうであろう期間(労働能力喪失期間。)と、労働能力喪失率(後遺障害によって労働能力が減った分)を乗じて算定することになります。
ただし、将来もらえる金額を、一括してもらう事になるので、「中間利息」というものを控除する事になります。
中間利息の控除は、一般的にはライプニッツ式という方式で計算されます。
まとめると、後遺障害事故における逸失利益は以下の計算式によって算定されます。
| 1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 |
・基礎収入⇒ 事故にあった方の事故時の収入です。
・労働能力喪失率⇒ 後遺障害によりどの程度労働ができなくなるかの率です。表により大体定型化されています。先ほどの表に載っています。
・労働能力喪失期間⇒ 症状固定の日から67歳までとされています。
・ライプニッツ係数⇒ 定型化されています。こちらのページで解説しています。
弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

【弁護士費用特約】とは、ご自身が加入している、自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険等に付帯している特約です。
弁護士費用特約が付いている場合は、交通事故についての保険会社との交渉や損害賠償のために弁護士を依頼する費用が、加入している保険会社から支払われるものです。
被害に遭われた方は、一度、ご自身が加入している各種保険を確認してみてください。わからない場合は、保険証券等にかかれている窓口に電話で聞いてみてください。
弁護士特約の費用は、通常300万円までです。多くのケースでは300万円の範囲内で、自己負担一切なしでおさまります。
骨折や重傷の場合は、一部超えることもありますが、弁護士費用特約の上限(通常は300万円)を超える報酬額となった場合は、越えた分を保険金からいただくということになります。
なお、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼する場合、どの弁護士を選ぶかは、被害に遭われた方の自由です。
※ 保険会社によっては、保険会社の承認が必要な場合があります。
弁護士費用特約を使っても、等級は下がりません。弁護士費用特約を利用しても、等級が下がり、保険料が上がると言うことはありません。
弁護士特約はご自身に過失があっても使えます。また、過失割合10:0の時でも使えます。なお、被害者に過失があっても利用できます。
まずは、ご自身やご家族の入られている保険に、「弁護士特約」がついているか確認してください。火災保険に付いている事もあります。
まとめ:手首の骨折は、弁護士への早期相談が重要です

手首の骨折は、その痛みの辛さが他人に理解されにくく、適切な補償を受けられずに泣き寝入りしてしまいがちな怪我の一つです。
「いつまで経っても痛みが取れない」「保険会社に『もう治っているはずだ』と言われた」など、お困りのことがあれば、諦めてしまう前に、ぜひ一度、交通事故に精通した弁護士にご相談ください。
ご自身の保険に弁護士費用特約が付いていれば、費用の心配なくご依頼いただくことが可能です。当事務所では、交通事故の専門チームが、皆様一人ひとりのお悩みに寄り添い、正当な賠償金を得るためのお手伝いをさせていただきます。
ご相談 ご質問

大きなケガの事故では、相手保険会社の提示額が、弁護士基準よりも大幅に低い「任意保険基準」で計算されているケースが少なくありません。
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
交通事故においても、専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。
交通事故でお悩みの方に適切なアドバイスができるかと存じますので、まずは、一度お気軽にご相談ください。

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。















