【弁護士が解説】顔に傷跡が残ったら…「男性は逸失利益がもらえない」は本当?醜状障害の慰謝料と賠償金について解説します【対話解説】

さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の交通事故集中チームの弁護士が執筆しています。交通事故における重要ポイントについて、実務上の知識を交えて詳しく解説します。

交通事故による怪我は、骨折や打撲といった「治る怪我」だけではありません。治療を終えてもなお、顔や手足に消えない傷跡(瘢痕)が残ってしまうことがあります。これを法律用語で「醜状(しゅうじょう)」、あるいは「外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)」と呼びます。

特に顔面に傷跡が残った場合、鏡を見るたびに事故を思い出す精神的苦痛は計り知れません。しかし、いざ保険会社と示談の話になると、「傷があっても体は動くので、仕事に支障はありませんよね? だから逸失利益(将来の減収補償)はゼロです」などと言われ、トラブルになるケースが後を絶ちません。 特に被害者が「男性」である場合、この傾向が顕著です。

本記事では、交通事故による「醜状障害」について、後遺障害等級の認定基準、かつてあった男女格差の問題、そして最も争いになりやすい「逸失利益」の判断基準について、実際の裁判例を交えながら交通事故チームの弁護士が分かりやすく解説します。

顔に傷が残った…これって後遺障害になるの?

顔に傷が残った…これって後遺障害になるの?

まずは、交通事故被害に遭われた方からよく寄せられる相談を、対話形式で見ていきましょう。

相談者(佐藤さん・仮名 20代男性): 先生、相談があります。半年前に車にはねられ、顔にガラス片で深い切り傷を負いました。傷自体はふさがったのですが、左頬に10センチくらいの目立つ線状の傷跡が残ってしまったんです。

弁護士: それは大変なお怪我でしたね。お顔の傷は、毎日鏡で見るものですから、精神的な負担も大きいとお察しします。

佐藤さん: はい…。それで、先日保険会社から連絡があったのですが、「佐藤さんは営業職ではなく事務職だし、男性だから、顔に傷があっても仕事には影響しないでしょ? 後遺障害の慰謝料は払うけど、逸失利益は払えません」と言われたんです。これって普通なんですか?

弁護士: 「普通」として済ませてはいけない問題です。確かにかつては、男性の顔の傷は女性に比べて軽く扱われる傾向がありました。しかし、現在は法律も変わり、男女の等級差はなくなっています。 また、「仕事に影響しないから逸失利益はゼロ」という保険会社の主張は、必ずしも正しくありません。裁判になれば、職種や傷の程度、将来への心理的影響などを考慮して、逸失利益が認められるケースもあるのです。

佐藤さん: そうなんですか! 諦めてハンコを押す前に相談してよかったです。詳しく教えてください。

1. 「外貌醜状」の後遺障害等級とは

1. 「外貌醜状」の後遺障害等級とは

交通事故で顔面や頭部、首など、日常的に露出する部分(外貌)に傷跡が残った場合、その程度に応じて「後遺障害等級」が認定される可能性があります。

かつては、この等級認定において「男女差別」が存在しました。 以前の基準では、同じ程度の傷跡でも、女性の方が男性よりも高い等級(重い障害)として認定されていました。しかし、京都地裁の平成22年の判決において「著しい醜状に関する男女間の差別的取扱いは著しく不合理であり、憲法14条1項(法の下の平等)に違反する」と判断されました。 これをきっかけに国も動き、平成23年以降の事故については基準が改定され、現在では男女とも同一の基準で等級が認定されています。

現在の主な等級認定基準は以下の通りです。

  • 第7級12号(外貌に著しい醜状を残すもの)
    • 頭部:手のひら大(指の部分は含まず)以上の瘢痕、または頭蓋骨の欠損
    • 顔面:鶏卵大面以上の瘢痕、または10円硬貨大以上の組織陥没
    • 頸部(首):手のひら大以上の瘢痕
  • 第9級16号(外貌に相当程度の醜状を残すもの)
    • 顔面:長さ5センチメートル以上の線状痕など
  • 第12級14号(外貌に醜状を残すもの)
    • 頭部:鶏卵大面以上の瘢痕、または頭蓋骨の欠損
    • 顔面:10円硬貨大以上の瘢痕、または長さ3センチメートル以上の線状痕
    • 頸部:鶏卵大面以上の瘢痕

このように、傷の大きさや長さによって等級が決まります。佐藤さんの「10センチの線状痕」であれば、9級または12級に該当する可能性が高いでしょう。

2. 最大の争点「逸失利益」は認められるのか?

2. 最大の争点「逸失利益」は認められるのか?

等級が認定されれば、その等級に応じた「後遺障害慰謝料」は支払われます。 しかし、保険会社と激しく対立するのが「逸失利益(いっしつりえき)」です。

逸失利益とは?

後遺障害が残ったことで労働能力が下がり、将来得られるはずだった収入が減ってしまうことに対する補償です。 手足の麻痺や関節の機能障害であれば、「重い荷物が持てない」「パソコン入力が遅くなる」など、労働能力への影響が明らかです。

なぜ醜状障害では揉めるのか?

顔に傷があっても、手足は動きますし、頭脳労働にも直接的な影響はないように見えます。そのため、保険会社は「労働能力の喪失はない=逸失利益はゼロ円」と主張してくることが非常に多いのです。 特に被害者が男性の場合、等級認定上の男女差は撤廃されたものの、逸失利益の交渉においては「男性の外見は仕事に影響しにくい」という古い考え方が根強く残っており、否定されがちな傾向にあります。

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3. 男性の顔面醜状でも逸失利益が認められるケース

3. 男性の顔面醜状でも逸失利益が認められるケース

裁判所は、単に「傷があるか」だけでなく、その傷が「仕事や将来にどう影響するか」を具体的に検討します。

① 労働能力への「直接的」な影響

傷跡が、職業選択や業務遂行に直接的なハンデとなる場合です。

  • モデル、俳優、タレント: 外見が重要な要素となる職業。
  • 接客業、営業職: 顧客に与える印象が売上に直結する職業。
  • 対人業務: 人と接する頻度が高い業務。

② 労働能力への「間接的・心理的」な影響

ここが重要なポイントです。 物理的に体が動いたとしても、顔に目立つ傷があることで、「人と会うのが億劫になる」「自分に自信が持てなくなる」「消極的になる」といった心理的な萎縮が生じます。 これを専門的な解釈では「労働意欲の低下」や「対人関係構築の阻害」と捉えます。 あたかもボクシングのボディブローのように、じわじわと仕事の能率や意欲にダメージを与え、結果として昇進・昇給の遅れや、転職の失敗につながる可能性があるのです。

裁判所も、こうした「心理的影響による間接的な労働能力の低下」を認める傾向にあります。

4. 実際の裁判例に見る判断(男性の事例)

4. 実際の裁判例に見る判断(男性の事例)

では、実際にどのようなケースで逸失利益が認められているのか、具体的な裁判例(判例)を見てみましょう。

【事例1:高校生(男性)のケース】

  • 事故状況: 16歳の男子高校生が顔面に約10センチの線状痕(12級相当)を負った。
  • 争点: 公務員の内定がでており、収入減少はないのではないか。
  • 判決: 被害者は事故後、公務員として内定を得ており、採用過程で不利益を受けた様子はありませんでした。しかし裁判所は、公務員の方が民間企業よりも容姿による不利益を受けにくいと考えて就職先を選んだ経緯や、将来民間へ転職する可能性も否定できないこと、さらに傷跡を気にして交友や懇親の場に出なくなることでキャリアアップに悪影響が出る可能性を認めました。 結果、67歳まで2.5%の労働能力喪失を認めました(東京地判平成29年4月25日)。

【事例2:商社営業マン(男性)のケース】

  • 事故状況: 眉間から額にかけて5センチの傷、頬に8センチの傷などが残った。
  • 判決: 傷跡は化粧品等で隠しきれず、初対面の顧客に顔を見られたり尋ねられたりすることが苦痛となっていました。これが原因で人と会うことに消極的になり、仕事の能力低下をもたらし、将来の昇進にも影響しかねないとして、10年間・10%の労働能力喪失を認めました(名古屋地判平成3年1月25日)。

【事例3:運送会社運転手(男性)のケース】

  • 事故状況: 口唇部に5センチ以上の線状痕。
  • 判決: 人目につく傷であり、初対面の顧客との折衝に消極的になっていること、社内での評判や将来の転職への影響を考慮し、67歳まで35%という高い労働能力喪失を認めました(さいたま地判平成27年4月16日)。

【事例4:不動産会社役員(男性)のケース】

  • 事故状況: 右目横、頬などに合計14.5センチの線状痕。
  • 判決: 不動産賃貸業以外にも営業活動が必要であり、特にアルコールを摂取すると傷跡が赤く目立つようになるため、飲食を伴う接待等の営業に消極的になると認められました。年齢や経験でカバーできる部分もあるとして、10年間・7%の労働能力喪失が認められました(横浜地判平成30年3月9日)。

このように、運転手や会社役員といった職業の男性であっても、「対人関係への消極性」や「心理的影響」を主張・立証することで、逸失利益が認められる余地は十分にあります。

5. もし逸失利益が認められなかったら?(慰謝料増額の主張)

5. もし逸失利益が認められなかったら?(慰謝料増額の主張)

事案によっては、どうしても「労働能力への影響」までは認められないケースもあります(例:デスクワーク中心で人と会わない、傷が目立ちにくい場所など)。 その場合、逸失利益がゼロになってしまうのでしょうか?

実は、逸失利益が否定された場合でも、その分の損害を「後遺障害慰謝料」に上乗せ(増額)する形で調整する裁判例が多く存在します。 「労働能力の喪失までは認められないが、将来にわたって傷跡を抱えて生きる精神的苦痛は甚大である」として、通常の基準額よりも高い慰謝料を認めるのです。

6. 正当な賠償金を得るための「3つの基準」

6. 正当な賠償金を得るための「3つの基準」

ここで改めて、賠償金の計算における重要なルールを確認しておきましょう。 交通事故の慰謝料や逸失利益の計算には、「3つの基準」があります。

  1. 自賠責基準: 法律で定められた最低限の補償。最も金額が低いです。
  2. 任意保険基準: 各保険会社が独自に設定している基準。自賠責よりは高いですが、次に述べる弁護士基準には遠く及びません。
  3. 弁護士基準(裁判基準): 過去の裁判例をもとに設定された基準。3つの基準の中で最も高額であり、法的に認められる正当な賠償額です。

保険会社が提示してくるのは、基本的に「2. 任意保険基準」です。 特に醜状障害の場合、保険会社は「逸失利益ゼロ」を提示してくることが多いですが、弁護士が介入し「弁護士基準」で交渉することで、逸失利益を獲得したり、慰謝料を増額させたりすることが可能になります。

【後遺障害慰謝料(弁護士基準)の目安】

  • 7級(著しい醜状): 1,000万円
  • 9級(相当程度の醜状): 690万円
  • 12級(醜状): 290万円

もし保険会社の提示がこれより低い場合、あるいは逸失利益が含まれていない場合は、すぐに弁護士にご相談ください。

7. 請求できる損害賠償の項目

7. 請求できる損害賠償の項目

後遺障害が残った場合、請求できるのは慰謝料だけではありません。全体像を把握しておきましょう。

  • 治療関係費: 治療費、入院費、通院交通費、傷跡を隠すための化粧品代など(必要性が認められれば)。
  • 休業損害: 治療のために仕事を休んだことによる減収。
  • 入通院慰謝料: 入院や通院を強いられた精神的苦痛に対する補償。
  • 後遺障害慰謝料: 前述の通り、等級に応じた精神的苦痛への補償。
  • 逸失利益: 将来の減収補償。
    • 計算式:1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

8. 交通事故を弁護士に依頼するメリット

8. 交通事故を弁護士に依頼するメリット

顔面の醜状障害、特に男性のケースは、専門的な知識と交渉力が結果を大きく左右します。

賠償金の大幅な増額 前述の裁判例のように、保険会社が「払わない」と言ってきた逸失利益を認めさせたり、慰謝料を増額させたりすることで、受取額が数百万円から数千万円変わることも珍しくありません。

後遺障害等級認定のサポート 傷跡の等級認定は、定規で長さを測るだけの単純なものではありません。「面接」が行われることもありますし、傷の形状や場所を正確に伝えるための「図面」や「写真」の提出が重要です。弁護士は、適正な等級が認定されるよう、申請段階からサポートします。

精神的負担の軽減 「顔の傷なんて仕事に関係ない」といった心ない言葉を保険会社から投げかけられるストレスから解放されます。

弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

「弁護士に頼みたいけれど、費用が心配」という方は、【弁護士費用特約】をご確認ください。

これは、ご自身が加入している自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険等に付帯している特約です。 弁護士費用特約が付いている場合は、交通事故についての保険会社との交渉や損害賠償のために弁護士を依頼する費用が、加入している保険会社から支払われるものです。

  • 費用負担なし: 通常300万円まで補償されます。多くのケースでは300万円の範囲内で、自己負担一切なしでおさまります。
  • 等級への影響なし: 弁護士費用特約を使っても、保険の等級は下がらず、翌年の保険料が上がることもありません。
  • 家族の保険も確認を: 被害者ご本人だけでなく、同居のご家族の加入している保険の特約が使える場合もあります。

まずは、ご自身やご家族の入られている保険証券を確認してみてください。

醜状障害でお悩みの方へ

醜状障害でお悩みの方へ

交通事故による顔や身体の傷跡は、一生背負っていくかもしれない深刻な問題です。 「男だから我慢しろ」「仕事はできるだろう」という理屈で、適正な補償を諦める必要は全くありません。

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 交通事故においても専門チームを設けており、醜状障害の逸失利益獲得についても豊富な経験があります。保険会社の提示額に納得がいかない方、今後の生活に不安を感じている方は、まずは一度お気軽にご相談ください。 LINEでの無料相談も行っています。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀

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