
本記事は、さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の交通事故集中チームの弁護士が執筆しています。
前編では、好意同乗(無償同乗)の基本的な意味と、「無償で同乗していたこと自体は減額の理由にならない」という原則、そしてその原則を示した裁判例を紹介しました。
後編となる本記事では、減額が認められた事案のうち「危険な運転を認識しながら同乗した」ケースや特殊な状況の判例を取り上げます。さらに、判断のポイント整理・慰謝料の算定基準・計算例・弁護士費用特約まで、賠償請求の実務に直結する情報を解説します。
【シリーズ】好意同乗(無償同乗)と交通事故賠償
前編:好意同乗の基本と「減額されない」判例
後編(本記事):飲酒・危険運転同乗の判例と賠償請求の実務
危険な運転を認識しながら同乗した裁判例

飲酒以外にも、速度超過・信号無視・無謀運転などの危険な運転を認識した上で同乗していた場合に、減額が問題となります。
| 【減額否定①】(神戸地判平27.11.11 交民48・6・1362) 同乗者が危険な運転状況を承知していたとはいえず、積極的に作出・助長した事情もないとして、減額を否定した。 |
| 【シートベルト不装着のみ1割減額】(大阪地判平31.2.27 交民52・1・254) 運転免許証を有する2名で運転を交しながら総勢4名で旅行するためレンタカーを借りた被害者が、前から3列目の座席でシートベルトを装着せず横になって睡眠して同乗中に高速道路の防護柵に衝突横転した事故。共同運行供用者として自賠法3条の他人に当たらないとした上で、シートベルト不装着についてのみ過失割合を1割とした。 (大阪地判平31.2.27 交民52・1・254) |
| 【減額否定② 高速運転の証拠不十分】(宇都宮地判令4.3.2 自保ジ2138・123) 制限時速60キロの道路を約130キロで走行中の友人運転の自動車に同乗していた被害者が、対向車線から転回してきた加害車両に衝突死亡した事故。被害者が高速運転を容認していたとする証拠が不十分であるとして、単なる同乗者にすぎず過失相殺の法理を適用するのは相当でないとして、好意同乗減額の主張を排斥した。 |
| 【シートベルトのみ5%過失相殺を認定】(さいたま地判令5.10.27 交民56・5・1431) 制限速度を大幅に超える時速100キロ以上で走行し駐車車両に衝突した加害者車両の後部座席に同乗中の被害者(高校生)が死亡した事故。被害者が危険運転を助長・誘発したとは認められないとして、好意同乗による減額を否定した上で、シートベルト不装着についてのみ5%の過失相殺を認めた。 |
| 【1割の過失相殺(高裁が変更)】(名古屋高判令6.2.8 自保ジ2173・90) 運転者が仮眠状態に陥り赤信号を無視して交差点に進入し後部座席同乗の被害者が死亡した事故。シートベルト不装着と好意同乗とを合わせて2割の過失相殺を認めた一審判決を変更し、シートベルト不装着についてのみ過失割合を1割とした。 |
| 【減額否定③ 信号無視を把握していても】(名古屋地令6.3.6 交民57・2・311) 信号を無視して交差点に進入した加害者運転のバイクに同乗していた被害者が受傷した事故。被害者が加害者の危険な運転に及ぶことを把握していたとしても、事故当時に危険な運転行為を許容していたとは認められないとして、好意同乗減額を否定した。 |
その他の状況における裁判例

| 【1割減額 異常な乗り方】(名古屋地判平17.3.30 交民38・2・549) 被害者ほか1名を二人乗りの自動車に同乗させていた加害者が速度超過で起こした単独事故。被害者は加害者が飲酒・速度超過することを知っており、かつ助手席に座っていた者の膝の上という異常な乗り方をしていたこと等を勘案して1割の減額を認めた。 |
| 【25%減額 飲酒・速度超過への容認】(東京地判平19.3.30 交民40・2・502) 先輩とパチンコ・飲酒後に加害者車甲の助手席に同乗中、酒眠りのため駐車中の大型貨物自動車に固避措置なく20km以上の速度超過で衝突して死亡した事故。自ら交通事故発生の危険性が高い状況を招来し認識した上で同乗したとして、シートベルト装着義務違反と併せて25%を減額した。 |
| 【2割減額 飲酒・速度超過②】(名古屋地判平20.1.29 交民41・1・114) 元職場の先輩の車に同乗し居酒屋への移動中にトンネル内側壁に衝突・横転し頸髄損傷等(1級)を負った事故。当初から飲酒運転を容認し多量の飲酒を承知で同乗していること、40キロの速度超過でのハンドル操作には飲酒が影響していること等を考慮して2割を減額した。 |
| 【25%減額 飲酒容認の経緯】(大阪地判平21.3.24 自保ジ1818・46) 乗用車が対向車線の普通貨物車と衝突し同乗者が受傷した事故。被害者は飲酒する目的で乗車し、運転手とともに飲酒後に飲酒運転を容認して同乗していたとして、損害の25%を減額した。 |
| 【10%減額 消極的黙認】(仙台地判平22.3.19 自保ジ1836・41) 加害者が時速115キロで運転しカーブを曲がり切れず被害者が死亡した事故。消極的な黙認であり積極的に事故を誘発・助長したとまでは評価されないとして10%を減額した。 |
| 【1割減額 断りにくい関係】(金沢地判平22.6.9 自保ジ1847・108) 激しい雨中の高速道路で無謀運転をし同乗中の被害者を死亡させた単独事故。被害者が飲酒・疲労を認識しながら同乗したことは否定できないが、加害者の依頼等を断りにくい関係であったこと等から、1割を減額するにとどめた。 |
| 【2割の過失相殺(15歳)】(横浜地判平22.10.29 自保ジ1847・140) 加害者が交差点を左折しようとした際に転倒し、箱乗り同乗中の被害者(15歳)を死亡させた事故。自ら言い出して箱乗りをしていた被害者に過失相殺すべきであるが、箱乗りを容認した年上の加害者にも責任があるとして被害者の過失割合を2割とした。 |
慰謝料の算定において斟酌された事例

| 【慰謝料において斟酌】(大阪高判平2.7.20 交民23・4・827) 仮免許を取得した被害者が友人の運転のもと母から借りた父名義の車に同乗中、交差点で事故に遭い受傷した事故。被害者が道案内をして右折を指示した後に生じた事故であること等の事情を勘案しても、高々慰謝料額の算定についての減額が考えられるのみであるとした。 |
好意同乗減額が問題になる場面と判断のポイント
以上の裁判例を踏まえると、好意同乗減額の判断は以下の要素を総合的に考慮して行われることがわかります。
減額が認められやすい要素
・運転者が飲酒していることを知りながら同乗した
・同乗者が飲酒・危険運転を積極的に誘発・助長した
・無謀運転(速度超過・無免許等)を認識した上で同乗した
・同乗者自身も飲酒し、運転者と共に飲酒運転をする関係にあった
・危険な乗り方(箱乗り・シートベルト不装着等)をしていた
減額が認められにくい要素
・無償で乗せてもらったこと自体(これだけでは減額理由にならない)
・加害者の危険運転に積極的に関与していない
・危険な運転であることを知らなかった(または知ることができなかった)
・運転者に運転をやめるよう言える立場になかった
・断りにくい関係・状況であった
慰謝料の3つの算定基準

① 自賠責基準
自動車損害賠償保障法に基づく最低限の補償基準です。入通院慰謝料は1日4,300円(令和2年4月以降)を基準として計算されます。保険会社がこの基準で示談を提案してくることが多くあります。
② 任意保険基準
各保険会社が独自に設定している内部基準です。自賠責基準よりやや高いことが多いものの、弁護士基準には及ばないのが通常です。
③ 弁護士基準(裁判基準)
裁判所が採用する基準で、赤い本等に基づいて算定します。自賠責基準と比較して、賠償額が大きく異なることがあります。
好意同乗が問題となる事案では、まずベースとなる損害額を弁護士基準で最大限に確定させることが重要です。減額割合を争う前提として、ベース金額を高く確定させることが最終受取額に直結します。
慰謝料・逸失利益の計算例

入通院慰謝料の比較例
| 【設例】入院1か月・通院3か月の場合 ●自賠責基準 対象日数:MIN(入通院期間120日、実通院日数×2)= 上限120日 慰謝料:120日 × 4,300円 = 51万6,000円 ●弁護士基準(赤い本別表Ⅰ)(下表参照) ![]() 入院1か月・通院3か月の交差する欄 慰謝料:約95万円 → 弁護士基準は自賠責基準の約1.8倍 仮に好意同乗として20%減額を主張された場合: 自賠責基準:51.6万円 × 0.8 = 約41万円 弁護士基準:95万円 × 0.8 = 約76万円 → ベース金額の違いが減額後の受取額に直結する |
逸失利益の計算式
| 【計算式】 逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数(就労可能年数に対応) 【設例】14級9号認定・会社員・年収450万円・固定時35歳の場合 基礎収入:450万円 労働能力喪失率:5%(14級9号) 就労可能年数:67歳 − 35歳 = 32年 → ライプニッツ係数:18.148(3%) 逸失利益:450万円 × 5% × 18.148 ≒ 408万円 仮に好意同乗として15%減額を主張された場合: 408万円 × 0.85 ≒ 約347万円(差額:約61万円) |
好意同乗の場合でも請求できる賠償項目

好意同乗中に事故に遭った場合でも、以下の損害項目を加害者(運転者側)に請求することができます。
・治療費(入院・通院・手術等にかかった費用)
・入通院慰謝料(入通院期間・日数に応じた精神的苦痛への補償)
・休業損害(事故による収入の減少)
・後遺障害慰謝料(後遺障害が残った場合の補償)(下表参照)
・逸失利益(後遺障害による将来の収入減少への補償)
・付添費・交通費・雑費等の積極損害
運転者との人間関係から「請求しにくい」と感じる方もいますが、実際の支払いは保険会社が行うケースがほとんどです。泣き寝入りせず、正当な補償を受けることが大切です。
弁護士費用特約を活用してください

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まとめ

好意同乗(無償同乗)に関するポイントをまとめます。
- 無償で乗せてもらっていること自体は、賠償額を減らす理由にならない
- 飲酒運転への同乗・危険な運転の誘発・助長などの帰責事由がある場合は、減額が認められることがある
- 減額される場合も、弁護士基準でベース金額を確定させることで最終受取額が変わる
- 友人・知人への請求でも、実際の支払いは保険会社が行うのが通常
- 弁護士費用特約があれば費用負担なく弁護士に依頼できる可能性が高い
好意同乗中の事故に遭われた方、または保険会社から減額を提示されている方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
| 前編もあわせてご覧ください 好意同乗と交通事故賠償【前編】好意同乗の基本と「減額されない」判例 |
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所について

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、さいたま市大宮区に拠点を置く、設立35年以上の歴史を持つ法律事務所です。埼玉県内トップクラスの実績を誇り、交通事故専門チームを擁して多くの被害者の方をサポートしてきました。
交通事故に関するご相談は初回無料で承っております。好意同乗の問題をはじめ、後遺障害等級認定・示談交渉・訴訟対応まで、経験豊富な弁護士が丁寧にサポートいたします。
- 所在地:埼玉県さいたま市大宮区
- 対応エリア:埼玉県全域・首都圏
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