
本記事は、さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の交通事故集中チームの弁護士が執筆しています。
「友人に車で送ってもらっていたら事故に遭った」「同僚の車に同乗中に怪我をした」――このような状況で、被害者の方はしばしばこんな疑問を持ちます。「タダで乗せてもらっていたのに、賠償を請求してもいいのだろうか」「保険会社から減額すると言われたが、それは正当なのだろうか」。
結論から言うと、無償で同乗していたこと(好意同乗)を理由に賠償額が減らされることは、原則としてありません。裁判所はこの点について一貫した立場をとっており、「タダで乗せてもらっていたから」というだけでは減額の根拠にならないと繰り返し判断しています。
本記事(前編)では、好意同乗の基本的な意味・法律上の位置づけと、減額が否定された裁判例を中心に解説します。飲酒運転への同乗など帰責事由が問題になる事案については後編で詳しく扱います。なお、本記事が引用する判例は「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(通称・赤い本)2026年版」に掲載されたものです。
【シリーズ】好意同乗(無償同乗)と交通事故賠償
前編(本記事):好意同乗の基本と「減額されない」判例
後編:飲酒・危険運転同乗の判例と賠償請求の実務
好意同乗(無償同乗)とは

好意同乗とは、運賃・料金などの対価を支払わずに、他人の車に無料で同乗することをいいます。友人に車で送ってもらう、会社の同僚の車に乗り合わせる、先輩のバイクに二人乗りするといった日常的な場面が典型例です。
問題となるのは、好意同乗中に運転者の過失で交通事故が起き、同乗者が怪我をした場合です。この場合、同乗者は運転者(および運転者側の保険会社)に対して損害賠償を請求できますが、「無料で乗せてもらっていたのだから、賠償額を減らすべきだ」という主張(好意同乗減額)がなされることがあります。
法律的には、好意同乗減額は民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用するか、あるいは同条項に基づく賠償額の調整として論じられます。減額の割合は具体的な事案ごとに個別に判断されるのが現状です。
原則:無償同乗であること自体は減額の理由にならない

まず大前提として、「無料で乗せてもらっていたこと」それ自体は、賠償額を減らす理由にはなりません。これは裁判例が示している原則です。
【原則】無償同乗自体を理由としては減額しない。
以下に、無償同乗を理由とした減額が否定された裁判例を紹介します。
減額否定の裁判例① 深夜ドライブ中の事故
| 【事案】 深夜ドライブで、休憩も取り4人の交互運転中の事故。被害者自身において事故発生の危険が増大するような状況を現出させたり、あるいは事故発生の危険が極めて高いような客観的事情が存在することを知りながらあえて同乗したなど、同乗者に事故の発生につき非難すべき事情がない以上、好意同乗の事実だけで被害者の損害賠償額を減額することはできない。 (東京地判平2.7.12 自保ジ900・2) |
減額否定の裁判例② 交際相手の運転
| 【事案】 交際相手の運転する車でドライブに出掛けた際の事故。被害者には事故に繋がるような無謀な運転を誘発したり容認するなどの帰責事由は認められないとして、好意同乗減額を否定した。 (東京地判平7.12.27 交民28・6・1884) |
減額否定の裁判例③ 5%減額主張を排斥
| 【事案】 無償で同乗していたこと自体を理由として減額すべきでない。事故発生につき被害者に何らかの帰責事由があることをうかがわせる証拠も全くないとして、好意同乗として5%の減額を求める被告らの主張を排斥した。 (山口地判平16.3.22 交民37・2・390) |
減額否定の裁判例④ 出張で加害者車両に同乗
| 【事案】 加害者運転の乗用車が大型貨物車と衝突し、出張のため加害者車に同乗していた被害者が受傷した事故。出張に自家用車を使用することは認められていなかったのに被害者らから依頼を受けて加害者が自家用車を提供したこと等を根拠とする好意同乗減額の主張に対し、事故発生の危険が増加したものではなく被害者に帰責事由は認められないとして、減額を否定した。 (大阪地判平17.9.21 交民38・5・1263) |
減額否定の裁判例⑤ スキー場への道中
| 【事案】 スキー場に向かう走行中に路面凍結のため車両がスリップしてトンネル壁に衝突し、助手席でシートを倒し仮眠中であった被害者が受傷した事案。被害者は単なる便乗・同乗者であり事故発生の危険性が増大するような状況を自ら積極的に現出させたり、事故発生の危険が高い事情が存在することを知りながらこれを認容して同乗した等の事情はないとして、減額を否定した。 (大阪地判平18.4.25 交民39・2・578) |
例外:同乗者に帰責事由がある場合は減額されることがある

無償同乗自体は減額理由にならない一方で、同乗者に一定の「帰責事由」がある場合には減額が認められることがあります。帰責事由として問題になるのは、主に次のようなケースです。
- 危険な運転であることを承知しながら同乗した(危険承知・危険容認)
- 運転者の飲酒・無謀運転を積極的に誘発・助長した
- 危険な運転を共同して行う関係にあった
本記事では、飲酒運転関連の判例を中心に紹介します。危険な運転を認識した上での同乗や、その他の特殊な状況については後編で詳しく解説します。
飲酒運転関連の裁判例
飲酒運転の車に同乗した場合、運転者が飲酒していることを知っていたかどうか、同乗者が飲酒を誘発・助長したかどうかが重要な判断要素になります。
| 【減額認定① 各1割減額】(名古屋地判平13.9.7 交民34・5・1244) 終業後の私的な会合で共に飲酒した会社の同僚同士の1人が運転し、他の2人が同乗していた車両が単独事故を起こし、同乗者2人が死亡した事故。死亡した被害者らも運転者の飲酒を知っていた点で事故発生に帰責事由があり、かつ当該自動車の運行により利益を受けるものであったとして、各々損害の全部から1割を減額した。 |
| 【減額認定② 1割減額】(名古屋地判平14.8.14 自保ジ1475・2) 加害者の危険な運転によって発生した単独事故で、以前にも加害者運転の車両に同乗したことがある被害者は加害者の運転が乱暴であることを知っており、かつ事故当日は加害者と一緒に飲酒した後に加害者車両に同乗したこと等を考慮し、損害額の1割を減額した。 |
| 【減額認定③ 4割減額】(東京地判平15.5.27 交民36・3・786) 未成年者を含む5名が他人名義の自動車で深夜から早朝にかけてドライブし、山間部で対向車線のコンクリート擁壁に正面衝突し、運転者を含む4名が死亡した事故。5名全員が共同運行供用者であるが被害者は自賠法3条の他人にあたるとした上で、友人同士で改造車で深夜のドライブを楽しんでいたこと、運転者が無免許であることは双方とも承知していたと推測されること、同乗者らが共同運行供用者の関係にあったこと等を考慮し、過失相殺として4割を減額した。 |
| 【減額認定④ 10%減額】(さいたま地判平16.3.11 交民37・2・321) 深夜バイト仲間で総勢8人が飲酒し、うち5名が乗車した自動車が赤信号停車中の貨物自動車に追突して同乗者が重傷を負った事故。被害者は酔いが進んだ状態を見かねて勧められた乗車であり、加害者の酔いが醒めていると判断するのも無理からぬ点、かつ速度超過や蛇行を同乗者らがたしなめても加害者が改めなかったこと等を総合的に判断し、10%減額した。 |
| 【減額認定⑤ 3割減額】(東京地判平16.5.10 交民37・3・618) ともにヘルメット不着用で原付自転車に2人乗りし、パトカーから逃走するため一方通行を逆走の上減速せずに信号のない交差点に侵入して普通貨物自動車と衝突した事故。危険な運転を容認しており、ヘルメット不着用も損害の拡大に寄与しているとして、3割を減額した。 |
| 【減額認定⑥ 20%減額】(大阪地判平28.3.23 交民49・2・453) 夜間から未明にかけて飲酒した被害者ら総勢9名(全員無免許)がドライブに行くことになり2台で走行中、飲酒のためれつの回らない状態の加害者が横転し、助手席の被害者が重傷を負った事故。運転者が飲酒していることを知りながら運転を制止することなく容認していたことにシートベルト不装着も併せ考慮して20%を減額した。 |
| 【1割の減額(傷害慰謝料の斟酌)】(東京地判平23.3.30 自保ジ1850・43) 被害者が免許取得1年未満で2人乗りを禁止されていることを認識していたとしても過失あるいは帰責事由とはいえないとして好意同乗減額を否定しつつ、傷害慰謝料・後遺障害慰謝料の一事情として斟酌した。 |
後編へ続く

危険な運転を認識した上での同乗・その他の特殊な状況の判例、判断のポイント整理、賠償額の計算例、弁護士費用特約の解説については後編をご覧ください。
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弁護士法人グリーンリーフ法律事務所について

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、さいたま市大宮区に拠点を置く、設立35年以上の歴史を持つ法律事務所です。埼玉県内トップクラスの実績を誇り、交通事故専門チームを擁して多くの被害者の方をサポートしてきました。
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