
紛争の内容
事故が起きたのは、交差点の手前に左折専用の車線が二つ並んでいる場所でした。依頼者は会社を営む法人で、その従業員が社用の車を運転していたところ、信号待ちから発進して左折する際、隣の左折車線を走っていた車と接触したのです。
このような場面での事故は、責任の所在をめぐって争いになりやすいという特徴があります。二つの左折車線が並んでいる以上、どちらの車も左へ曲がっていくわけですから、互いの進路が交わりやすく、「相手が自分の進路に入ってきた」と双方が主張しがちなのです。本件でも、まさにそうした対立が生じました。当方は、相手方の車が歩行者を避けるために進路を右に変え、強引に左折してきたのだと主張しました。他方、相手方は、当方の車が早回りに、つまり鋭角に左折したことが原因だと反論してきたのです。
さらに本件を複雑にしたのは、双方が互いに損害賠償を求める形になったことでした。当方は依頼者の車の修理費などを請求し、相手方の側もまた、車の所有者から当方の運転者に対して修理費などを請求してきたのです。争点は二つ。すなわち、過失割合をどう定めるか、そして、それぞれの車に生じた損害をいくらと認めるか、でした。
そして当職が調査を進めるなかで、看過できない事実が浮かび上がりました。相手方が主張する修理費の中身に、この事故によって生じたとは考えがたい項目が数多く含まれていたのです。
交渉・調停・訴訟等の経過
当職はまず、ドライブレコーダーの映像をはじめとする客観的な証拠に基づいて、事故態様に関する主張を組み立てました。もっとも、事故態様については相手方も同様に主張を尽くしており、この点は最後まで見解が対立したまま、裁判所の判断に委ねられることになりました。
当職がとりわけ力を注いだのは、損害額の検証です。相手方は、大手ディーラーで修理を行っており、修理工場が作成した見積書には高い信用性が認められるべきだと主張していました。修理工場が必要と判断して実施した項目である以上、事故との因果関係は当然に認められる、というのがその論法です。一見すると、もっともらしい主張です。
しかし当職は、この主張をそのまま受け入れることはしませんでした。相手方が提出した売上伝票の一項目ずつを丹念に洗い、本件の事故態様から生じ得る損傷はどこまでかを検証していったのです。そして、フロントバンパーや右フェンダーといった外装部分、さらにはサスペンション周りやタイヤ、ホイールに至るまで、本件の接触態様からは到底生じ得ない箇所の修理が含まれていることを、具体的に指摘しました。
そのうえで当職は、写真等の証拠に基づき、損傷の向きや位置に着目した主張を展開しました。相手方の車のフロントドア前端部に生じている損傷は、前方から後方に向かうものであり、これは相手方の車が当方の車より相対的に速い速度で接触した場合に生じるはずのものです。しかし、本件の事故状況からすれば、そのような接触は想定しがたい。この矛盾を、証拠に即して丁寧に突いていったのです。
これに対して相手方は、ドアを開けた際にフェンダー部分と接触して生じた損傷だと反論しましたが、当職はさらに踏み込みました。相手方の説明どおりであれば、ドアと同じような損傷がフェンダー側にも生じているはずなのに、そうした損傷は見当たらない。加えて、説明のつかない別方向の損傷まで存在している。こうした指摘の一つひとつが、相手方の主張の信用性を切り崩していきました。
本事例の結末
裁判所は、過失割合について、当方の運転者に六割、相手方に四割と認定しました。事故態様に関する当方の主張は、この点では受け入れられませんでした。
しかし、損害額の認定において、当職の主張は大きく実を結びました。裁判所は、相手方が主張していた四八万円を超える修理費のうち、本件事故との因果関係が認められるのは一六万円余りにとどまると判断したのです。実に、請求額の三分の二以上が、事故とは無関係な修理であると退けられたことになります。
その結果、当方の車の損害については、相手方に対して一五万円余りの支払いが命じられました。他方、当方の運転者が相手方に支払うべき金額は、一〇万円余りにとどまりました。過失割合では不利な認定を受けながらも、損害額の検証を徹底したことによって、差し引きすれば当方が受け取る側に立つという結論を得たのです。
判決の内容は双方が受け入れ、本件はこれをもって確定的に解決しました。争点をめぐって主張が真っ向から対立し、交渉での歩み寄りが難しい事案において、裁判所という第三者の判断を仰ぐことで、双方が納得して区切りをつけることができたのです。
本事例に学ぶこと
第一に、相手方が提出する修理費の見積りを、そのまま受け入れる必要はないということです。「ディーラーが作成したものだから」「修理工場が必要と判断したのだから」という理由だけで、事故との因果関係が当然に認められるわけではありません。本件では、請求された修理費の三分の二以上が事故と無関係と判断されました。損傷の位置や向き、事故の態様との整合性を一つひとつ検証していく地道な作業が、これほどの差を生むのです。修理費の水増しや、事故を機会とした無関係な修理、いわゆる便乗修理が疑われる場面では、この検証こそが決定的な意味を持ちます。
第二に、過失割合と損害額は別個の争点であり、片方で不利でも他方で挽回できる場合があるということです。本件で当方は過失割合において不利な認定を受けましたが、損害額の争いで成果を上げたことにより、全体としては受け取る側に立つ結果となりました。事故の賠償は、複数の要素が組み合わさって最終的な金額が決まります。一つの論点だけを見て諦めてしまうのは、早計といえるでしょう。
第三に、判決という解決の形についてです。裁判と聞くと、身構えてしまう方も多いかもしれません。しかし、主張が真っ向から対立し、交渉での歩み寄りが難しい事案では、裁判所の判断を仰ぐことが、かえって双方にとって納得のいく解決につながることがあります。本件でも、判決を双方が受け入れ、争いに終止符が打たれました。当事務所では、必要と判断すれば訴訟提起を厭いません。
最後に、左折専用車線が複数ある交差点のように、双方の進路が交錯しやすい場所での事故は、責任の所在をめぐって争いが生じやすいということです。ドライブレコーダーの映像は、そうした場面で客観的な事実を明らかにする有力な手がかりとなります。
交通事故の過失割合や請求された修理費の内容に疑問をお持ちの方は、どうか一度、専門家の目を通してみてください。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。私たちは、証拠を丹念に検証し、依頼者にとって最善の結果を追求してまいります。














