
本記事は、交通事故で「首の骨を折る」という大変なお怪我をされた被害者様を対象とした記事となります。
事故により「頚椎骨折」という診断を受け、激しい痛みや今後の生活へのご不安のなか、このページをご覧いただいていることと存じます。
頚椎、すなわち「首の骨」は、重い頭を支え、脳と身体をつなぐ非常に重要な神経(脊髄)を守る、生命維持に不可欠な部位です。この部分の骨折は、単なる骨折にとどまらず、麻痺などの重い後遺症を残す可能性があり、最悪の場合、生命に関わることさえある極めて深刻なお怪我です。
このような大変な状況から一日も早く回復するためには、適切な治療に専念することが何よりも大切です。そして、それと同時に、今後の生活を支えるための「正当な損害賠償」を受けることも、被害回復のためのもう一つの重要な柱となります。
しかし、交通事故の賠償実務は非常に複雑です。専門知識がないまま加害者側の保険会社の言う通りに手続きを進めてしまうと、本来受け取れるはずだった賠償金が、気づかないうちに大幅に減額されてしまう可能性があります。
この記事では、交通事故による頚椎骨折でお悩みの被害者様が、知っておくべき知識と、正当な賠償を得るための方法について弁護士が分かりやすく解説します。
頚椎骨折とはなにか?

まず、ご自身が負われたお怪我について正確に理解することは、今後の適切な治療や法的対応を行う上での第一歩です。
頚椎は、7つの骨が積み重なって構成されており、頭蓋骨と胸椎(背骨)をつないでいます。その主な役割は以下の2つです。
- 頭部の支持と運動: 約5~6kgもある重い頭を支え、前後左右に動かす役割を担っています。
- 脊髄の保護: 頚椎の中には、脳からの指令を全身に伝え、全身からの情報を脳に送る「脊髄」という太い神経の束が通っています。この脊髄が損傷すると、手足の麻痺や感覚障害、呼吸障害など、生命活動に直結する深刻な事態を引き起こします。
頚椎骨折が特に危険視されるのは、この「脊髄」を損傷するリスクが非常に高いためです。骨折の仕方によっては、骨片が脊髄を圧迫・損傷し、四肢麻痺(頚髄損傷)や呼吸筋麻痺による人工呼吸管理が必要になるなど、重篤な後遺症につながる可能性があります。
交通事故における頚椎骨折の主な原因と症状

自動車やバイクの運転中、あるいは歩行中であっても、強い衝撃が首に加わることで頚椎骨折は発生します。
- 正面衝突・側面衝突: 身体が前方に投げ出されたり、横から激しく揺さぶられたりすることで、首に強大な力がかかります。
- バイク・自転車事故、歩行者事故: 身体が直接地面や車両に叩きつけられることで、頭部や頚部に直接的なダメージを受け、骨折するケースが多く見られます。
頚椎骨折は、その骨折の仕方によっていくつかに分類されます。代表的なものとして、骨が潰れるように折れる「圧迫骨折」、骨が砕けるように折れる「破裂骨折」、第2頚椎の突起部分が折れる「歯突起骨折」などがあります。
また、脊髄損傷のリスクの観点から「安定型骨折」と「不安定型骨折」に分けられ、後者は骨のズレが大きく、脊髄を傷つける危険性が高い状態を指します。
現れる症状は、骨折の部位や程度、脊髄損傷の有無によって大きく異なりますが、主に以下のようなものが挙げられます。
- 首、肩、背中の激しい痛み
- 首を動かせない、または動かすと激痛が走る
- 頭痛、めまい、吐き気
- 腕や手のしびれ、痛み、脱力感(力が入らない)
- 【重篤な場合】両手両足の麻痺(四肢麻痺)、排尿・排便障害、呼吸困難
これらの症状がある場合は、決して自己判断せず、直ちに専門医の診察を受ける必要があります。
事故発生から症状固定までで被害者が知っておくべき注意点

・ 事故直後こそ精密検査を・ レントゲンだけで安心は禁物です
事故直後の病院でレントゲン検査を受け、「骨に異常なし」と言われても安心はできません。特に、骨のわずかなヒビや、骨折による周囲の靭帯・神経の損傷は、レントゲンだけでは判別が難しい場合があります。
痛みが続いたり、手足にしびれが出たりした場合は、必ず医師にその症状を伝え、CTやMRIといったより詳細な画像検査(精密検査)を受けるようにしてください。この初期段階での客観的な画像所見の有無が、後の後遺障害認定において決定的に重要になることがあります。
・治療に専念するためのポイント
頚椎骨折の治療は、安静を保つためのカラー(頚椎装具)装着や、場合によっては手術が必要となります。最も大切なのは、医師の指示に忠実に従い、治療を継続することです。
また、痛み緩和のために整骨院や接骨院に通いたいとお考えになるかもしれませんが、その際は主治医の許可を得てください。医師の許可なく施術を受けると、後の賠償請求において、その施術費が保険会社から支払われなかったり、治療行為として認められなかったりするリスクがあります。
・過失がある場合や治療費が大きくなる場合は健康保険利用も
交通事故は第三者行為による傷病であるため、「原則として加害者が治療費を全額負担すべき」という考え方が一般にありますが、健康保険の利用は可能です。たとえば、赤信号で交差点に進入した自転車と衝突した場合など、被害者側にも過失があると、相手方保険会社は過失割合に応じて一部しか治療費を支払わないことがあります。
この場合、自費で治療を続けると多額の負担となってしまうため、健康保険を使うことで経済的負担を軽減できます。
・保険会社による「治療費の打ち切り」
事故から数ヶ月が経過すると、加害者側の保険会社の担当者から「そろそろ治療を終わりにしませんか」「来月で治療費の支払いを打ち切ります」といった連絡が入ることがあります。
しかし、治療の終了(症状固定)を判断するのは、保険会社ではなく、原則として、あなたの身体を診察している主治医です。まだ痛みやしびれが残っており、医師が治療の必要性を認めているにもかかわらず、保険会社の都合で治療を中断させられてはたまりません。
このような不当な治療費の打ち切りに対しては、弁護士が介入し、医学的な観点から治療継続の必要性を主張することで、支払期間を延長できる可能性が高まります。
・「症状固定」- 後遺障害申請のスタートラインです
「症状固定」とは、これ以上治療を続けても、症状の大幅な改善が見込めなくなった状態を指します。この症状固定日をもって治療は一区切りとなり、残ってしまった症状については「後遺障害」として、別途賠償を請求していくことになります。
症状固定の時期は、入通院慰謝料の金額や、後遺障害が認められるかどうかに大きく影響します。保険会社に急かされるまま安易に同意するのではなく、必ず主治医と今後の見通しについて十分に話し合い、慎重に判断しましょう。
頚椎骨折で認定されうる後遺障害等級 – 慰謝料額を左右する最も重要な手続き

症状固定後も痛みやしびれ、動かしにくさなどの症状が残ってしまった場合、その症状が「後遺障害」に該当するとして、損害保険料率算出機構(自賠責)という専門機関に等級認定の申請を行います。この手続きが、賠償額を決定するうえで最も重要と言っても過言ではありません。
後遺障害等級は、症状の重さに応じて最も重い1級から最も軽い14級まで区分されています。そして、等級が認定されるかどうか、また何級に認定されるかによって、後遺障害慰謝料や逸失利益といった賠償金の額が、数百万円から、重い場合には数千万円以上も変わってくるのです。
つまり、適切な等級認定をされることが正当な賠償を受けるための絶対条件となります。
頚椎骨折で想定される後遺障害
頚椎骨折後に残存する症状は、主に「変形障害」「運動障害」「神経症状」の3つの観点から評価されます。
① 変形障害(骨の変形が残った場合)
骨折した頚椎が、元の形に戻らずに変形したまま癒合してしまった場合の障害です。
- 第11級7号:脊柱に変形を残すもの
レントゲン写真などで、頚椎が潰れてしまった(圧迫骨折)ことや、ズレたまま固まってしまったことが明らかに確認できる場合に認定される可能性があります。
② 運動障害(首の可動域が制限された場合)
骨折の影響で、首を前後や左右に動かせる範囲(可動域)が狭くなってしまった場合の障害です。
- 第6級5号:脊柱に著しい運動障害を残すもの
頚椎の複数の骨が癒合してしまい、首がほとんど動かせない(強直した)ような、極めて重い状態が該当します。 - 第8級2号:脊柱に運動障害を残すもの
医師による測定で、首の主要な可動域が、健康な状態(参考可動域)の1/2以下に制限されている場合に認定される可能性があります。
③ 神経症状(痛み・しびれ・麻痺が残った場合)
頚椎骨折で最も多く問題となるのが、この神経症状です。脊髄や神経根(脊髄から枝分かれする神経の根元)が圧迫・損傷されることで生じます。
- 脊髄損傷を伴う重篤な麻痺
症状の程度に応じて、1級~9級までの幅広い等級が認定される可能性があります。例えば、四肢麻痺で常に介護が必要な場合は1級、軽度の麻痺でも生涯にわたり労働に大きな支障が出る場合は9級など、症状に応じて判断されます。 - 痛みやしびれ
- 第12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
残った痛みやしびれの原因が、MRIやCTなどの画像所見によって医学的に「証明」できる場合に認定されます。例えば、「骨折による変形で神経が圧迫されている」ことが画像で明確にわかるケースです。
- 第14級9号:局部に神経症状を残すもの
画像上では明確な異常が見つからないものの、事故の状況、治療の経過、症状の一貫性などから、その症状の存在が医学的に「説明」可能な場合に認定されます。
- 第12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
後遺障害の審査は、原則として提出された書類や画像のみで行われます。そのなかで最も重要なのが、主治医に作成してもらう「後遺障害診断書」です。
この診断書の内容が不十分だと、本来認定されるべき等級が認められないという事態に陥りかねません。被害者様の症状を正確に、かつ専門機関の審査担当者に伝わるように記載してもらうためには、事前に弁護士が診断書の内容をチェックし、記載すべき検査結果や症状の推移について、医師に的確にお伝えするサポートが極めて有効です。
頚椎骨折の賠償金 – 「弁護士基準」で請求すべき正当な金額

適切な後遺障害等級が認定されたら、次はいよいよ保険会社との具体的な賠償金の交渉です。ここで知っておかなければならないのが、慰謝料などの計算に用いられる「3つの基準」の存在です。
慰謝料の計算には3つの基準がある
- 自賠責基準: 法律で定められた最低限の補償。最も金額が低い。
- 任意保険基準: 各保険会社が独自に設定している基準。自賠責基準よりは高いが、次に述べる弁護士基準には遠く及ばない。
- 弁護士基準(裁判基準): 過去の裁判例をもとに設定された基準。3つの基準の中で最も高額であり、法的に認められる正当な賠償額です。
保険会社が被害者本人に提示してくる金額は、通常「任意保険基準」か、それに近い低い金額です。被害者が「弁護士基準」で賠償金を受け取るためには、弁護士を立てて交渉することが事実上、不可欠となります。
請求できる損害賠償の項目
交通事故で請求できるのは慰謝料だけではありません。主に以下の項目があります。
- 治療関係費: 治療費、入院費、通院交通費、装具代など。
- 休業損害: お怪我で仕事を休んだことによる収入減。
- 入通院慰謝料: 入院や通院を強いられた精神的苦痛に対する補償。
- 後遺障害慰謝料: 後遺障害が残ったことによる将来にわたる精神的苦痛への補償。
- 逸失利益: 後遺障害によって将来得られるはずだった収入が減少したことへの補償。
【等級別】後遺障害慰謝料の相場(弁護士基準)
参考までに、頚椎骨折で認定されうる等級の後遺障害慰謝料(弁護士基準)の相場をご紹介します。
※下記はあくまで目安です。任意保険会社の提示額は、これよりも大幅に低いことがほとんどです。
後遺障害等級 | 裁判基準 | 労働能力喪失率 |
---|---|---|
第1級 | 2,800万円 | 100/100 |
第2級 | 2,370万円 | 100/100 |
第3級 | 1,990万円 | 100/100 |
第4級 | 1,670万円 | 92/100 |
第5級 | 1,400万円 | 79/100 |
第6級 | 1,180万円 | 67/100 |
第7級 | 1,000万円 | 56/100 |
第8級 | 830万円 | 45/100 |
第9級 | 690万円 | 35/100 |
第10級 | 550万円 | 27/100 |
第11級 | 420万円 | 20/100 |
第12級 | 290万円 | 14/100 |
第13級 | 180万円 | 9/100 |
第14級 | 110万円 | 5/100 |
逸失利益 – 将来の収入減に対する補償
将来得られるはずだったが、後遺障害のために得られなくなってしまった収入のことを「後遺障害逸失利益」といいます。専門用語で「得べかりし利益(うべかりし利益)」とも言います。
逸失利益は、基本的には1年あたりの基礎収入に、後遺障害によって労働能力を失ってしまうことになってしまうであろう期間(労働能力喪失期間。)と、労働能力喪失率(後遺障害によって労働能力が減った分)を乗じて算定することになります。
ただし、将来もらえる金額を、一括してもらう事になるので、「中間利息」というものを控除する事になります。
中間利息の控除は、一般的にはライプニッツ式という方式で計算されます。
まとめると、後遺障害事故における逸失利益は以下の計算式によって算定されます。
1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 |
・基礎収入⇒ 事故にあった方の事故時の収入です。
・労働能力喪失率⇒ 後遺障害によりどの程度労働ができなくなるかの率です。表により大体定型化されています。先ほどの表に載っています。
・労働能力喪失期間⇒ 症状固定の日から67歳までとされています。
・ライプニッツ係数⇒ 定型化されています。こちらのページで解説しています。
骨折等の重傷の場合の入通院慰謝料(弁護士基準)
後遺障害慰謝料とは別で請求できます。
骨折など、むちうちより重い怪我の場合は、より高額な慰謝料基準が適用されます。
- 通院期間6ヶ月の場合:基準額 約116万円
- 過失9対1の場合の請求額:116万円 × (1 – 0.1) = 約104.4万円
- 通院期間1年の場合:基準額 約154万円
- 過失9対1の場合の請求額:154万円 × (1 – 0.1) = 約138.6万円
※上記は通院のみの場合の目安です。入院期間があればさらに増額されます。
●表の見方
- 入院のみの方は、「入院」欄の月に対応する金額(単位:万円)となります。
- 通院のみの方は、「通院」欄の月に対応する金額となります。
- 両方に該当する方は、「入院」欄にある入院期間と「通院」欄にある通院期間が交差する欄の金額となります。
後遺障害の等級認定について

後遺障害は、慰謝料等の保険金に大きな影響を及ぼします。
後遺障害の等級認定は、医師の診断書を元に損害保険料率算出機構が行いますが、被害者が考えているような認定が受けられないことがしばしばあります。
つまり、考えていたよりも低い等級で認定されてしまったり、等級がつかない「非該当」とされることもあります。
適正な後遺障害の認定を受けるためには、適切な治療を受け、適切な検査を受け、適切な行為障害の診断書を作成してもらうことは、重要です。
同じ症状でも、医師がどのような治療を選択するか、検査を選択するかは、全く違います。また、診断書の書き方も全く違います。
従って、適切な後遺障害の認定を受けるためにも、受傷直後、症状固定前から、弁護士に相談されることが重要です。
交通事故に遭われた場合、できるだけ早い段階で当事務所にご相談ください。
・法律相談料は初回無料
・10分無料電話相談実施中(お気軽にお電話ください)
・ラインでの相談無料
弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

【弁護士費用特約】とは、ご自身が加入している、自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険等に付帯している特約です。
弁護士費用特約が付いている場合は、交通事故についての保険会社との交渉や損害賠償のために弁護士を依頼する費用が、加入している保険会社から支払われるものです。
被害に遭われた方は、一度、ご自身が加入している各種保険を確認してみてください。わからない場合は、保険証券等にかかれている窓口に電話で聞いてみてください。
弁護士費用特約で、自己負担一切なしのケースもあります。
弁護士特約の費用は、通常300万円までです。多くのケースでは300万円の範囲内でおさまります。
骨折や重傷の場合は、一部超えることもありますが、弁護士費用特約の上限(通常は300万円)を超える報酬額となった場合は、越えた分を保険金からいただくということになります。
なお、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼する場合、どの弁護士を選ぶかは、被害に遭われた方の自由です。
※ 保険会社によっては、保険会社の承認が必要な場合があります。
弁護士費用特約を使っても、等級は下がりません。弁護士費用特約を利用しても、等級が下がり、保険料が上がると言うことはありません。
過失があっても使えます。
弁護士費用特約は、過失割合10:0の時でも使えます。なお、被害者に過失があっても利用できます。
まずは、ご自身やご家族の入られている保険に、「弁護士特約」がついているか確認してください。火災保険に付いている事もあります。
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