紛争の内容
ご依頼者の方は、信号待ちで停車中に後方から走行してきた相手方車両に追突され、車両が損傷するとともに、頸部等に痛みを生じるお怪我を負われました。

物損については、車両の修理自体には争いがなかったものの、修理期間中の代車(レンタカー)費用をめぐって、相手方保険会社との間で折り合いがつきませんでした。

相手方保険会社は、「通常の修理であれば、これほど長期間はかからないはずである」として、修理に実際に要した期間の全部については代車費用を認められないという姿勢を示しました。

また、ご依頼者の方が必要とされる車両のグレードについても、「一般的な国産の小型車で足りるはずであり、それを超える部分は過大である」として、レンタカーのグレードを制限しようとする対応が見られました。

さらに人身損害についても、ご依頼者の方が専業主婦であられたことから、相手方保険会社は当初、休業損害について消極的な姿勢を示しており、家事に従事できなかったことによる損害をどのように評価するかが争点となりました。

交渉・調停・訴訟等の経過
まず、修理期間については、修理工場から入庫日、点検・見積りの経過、部品の発注日、部品メーカーからの納期回答、実際の入荷日、作業日程といった一連の資料をご提供いただき、時系列に沿って整理いたしました。

そのうえで、当該車種については一部の部品が在庫を持たない受注生産に近い扱いとなっており、部品の調達自体に相応の日数を要したこと、また、その部品が入らなければ後続の作業に着手できない工程上の順序があったことを、修理工場の説明も踏まえて具体的に主張いたしました。

単に「時間がかかった」という抽象的な主張ではなく、どの部品を、いつ発注し、いつ届き、その間なぜ作業を進められなかったのかを一つひとつ丁寧に説明した結果、相手方保険会社も工程上やむを得ない待機期間であったことを認め、実際に修理に要した期間の全部について代車費用を認める判断に至りました。

次に、レンタカーの車両グレードについては、単に「元の車と同等の車に乗る権利がある」という一般論を述べるのではなく、ご依頼者の方の生活実態に踏み込んで必要性を主張いたしました。

具体的には、日常的にどのような目的で車両を使用されているのか、家族構成や送迎の状況、荷物の積載の必要性、乗降の際の身体的な事情など、その車両でなければ日常生活に具体的な支障が生じることを、使用状況を裏付ける資料とともに説明いたしました。
その結果、相手方保険会社も、当該グレードの車両を借りる必要性が単なる好みや希望ではなく、生活上の必要に基づくものであることを理解し、ご依頼者の方が納得できるグレードの車両についての費用が認められることとなりました。

人身損害については、専業主婦であっても家事労働には財産的価値が認められ、家事に従事できなかった期間について休業損害が発生するという考え方を前提に、賃金センサスに基づく基礎収入を主張いたしました。

そのうえで、通院の経過や症状の推移を診断書・診療報酬明細書等で示すとともに、事故直後はどの家事がどの程度できなかったのか、家族にどのような負担が生じたのかといった具体的な支障の内容を整理し、症状の改善に応じて段階的に家事に復帰していった経過を反映した形で休業損害を算定いたしました。

この点についても、相手方保険会社との交渉を重ねた結果、主婦としての休業損害が認められるに至りました。

本事例の結末
最終的に、訴訟に至ることなく示談によって解決いたしました。

物損については、実際に修理に要した期間の全部についてのレンタカー費用が認められ、かつ、ご依頼者の方の生活状況に照らして必要と考えられるグレードの車両についての費用が認められました。

人身損害についても、主婦としての休業損害を含む賠償を獲得することができ、ご依頼者の方にご納得いただける内容での解決となりました。

本事例に学ぶこと
交通事故における代車費用は、金額としては大きくならないこともあり、保険会社から示された条件をそのまま受け入れてしまわれる方も少なくありません。

しかし、代車費用は「相当な修理期間」について「相当なグレード」の車両を借りた費用が認められるという枠組みで判断されるものであり、この「相当性」は、決して保険会社が一方的に決めるものではありません。

本事例で修理期間の全部について代車費用が認められたのは、部品の調達にどれだけの日数を要し、その間なぜ作業を進められなかったのかという工程上の事情を、修理工場からの資料に基づいて時系列で具体的にお示しできたからです。

「修理に時間がかかったから仕方がない」という説明では足りず、その遅れが車両側の事情によるやむを得ないものであったことを、客観的な資料をもって裏付けることが重要になります。

また、レンタカーのグレードについても同様のことがいえます。一般論としての「同等車種」の主張だけでは、保険会社の「小型車で足りる」という反論を崩すことは容易ではありません。

本事例で必要なグレードの車両が認められたのは、ご依頼者の方の家族構成や送迎の状況、荷物の積載、乗降の際の事情といった、その方の生活の実態に即して、なぜその車両でなければ日常生活に支障が生じるのかを具体的に説明できたからにほかなりません。
損害の相当性は抽象的な基準だけで決まるものではなく、その方の個別の生活状況に即して主張することによってはじめて説得力を持つということを、本事例は示しているように思われます。

さらに、専業主婦の方の休業損害についても、注意が必要です。
「収入がないのだから休業損害は発生しない」と誤解されている方は今なお多く、保険会社から消極的な対応をされて諦めてしまわれるケースも見受けられます。

しかし、家事労働には財産的な価値が認められており、家事に従事できなかった期間については休業損害が認められるのが確立した考え方です。

もっとも、実際に認められるためには、症状の経過を医証で裏付けるとともに、どの家事がどの程度できなかったのか、症状の改善に伴ってどのように復帰していったのかを、具体的に示していく必要があります。

こうしたことからいえるのは、交通事故の賠償においては、事故直後からの記録が後の交渉の成否を大きく左右するということです。

修理工場とのやり取り、部品の納期に関する説明、日々の身体の状態や家事への支障の程度など、その時点では些細に思えることでも、後になって重要な裏付けとなることが少なくありません。

相手方保険会社から示された金額や条件に疑問を感じられた場合には、ご自身で判断されて示談に応じてしまわれる前に、早い段階で弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

弁護士 遠藤 吏恭