紛争の内容
ご依頼者の方は、自動車を運転中に相手方車両と接触する事故に遭われました。
事故による衝撃で頸部等に痛みが生じたため、医療機関を受診し、通院治療を継続されていました。

ところが、相手方保険会社は、本件事故によってご依頼者の方が負傷したという事実そのものを否認してきました。

その理由として、車両の損傷が軽微であり、そのような軽微な衝突では人身損害が生じ得ないこと、仮に痛みがあったとしても事故とは無関係の既往症によるものである可能性があることなどを主張し、治療費の支払いにも慰謝料の支払いにも一切応じないという強硬な姿勢を示していました。

ご依頼者の方としては、現実に痛みを感じて通院を続けているにもかかわらず、怪我をしたこと自体を否定され、納得のいかない思いを抱えておられました。
受傷の事実が認められなければ、治療費も慰謝料も一切認められないことになるため、本件はまず「事故によって負傷したこと」そのものを立証しなければならない事案でした。

交渉・調停・訴訟等の経過
ご依頼を受け、まず医療機関から診療録(カルテ)および画像データを取り寄せ、記載内容を詳細に検討しました。

その結果、事故直後の初診時に、ご依頼者の方が事故の状況とともに痛みを訴えていたことが診療録に明確に記載されていること、初診から一定期間にわたり症状の訴えに一貫性があり、途中で突然訴えが変化したような不自然な経過が見られないこと、診察時の所見としても他覚的な記載が残されていることを確認することができました。また、ご依頼者の方には、相手方保険会社が指摘するような既往症は認められませんでした。

そのうえで、相手方保険会社に対し、以下の点を整理して具体的に反論しました。
第一に、事故から受診までの期間が短く、事故と症状との間に時間的な近接性が認められること。
第二に、診療録の記載から症状の訴えが一貫しており、通院の実態も伴っていること。
第三に、医学的に見ても、車両の損傷が軽微であることと乗員が受けた衝撃の大きさとは必ずしも一致せず、損傷の程度のみをもって受傷の可能性を否定することはできないこと。
第四に、ご依頼者の方には事故前に同様の症状で治療を受けた経過がなく、既往症に起因するという主張には根拠がないこと。

これらを、診療録の該当箇所や画像所見といった客観的な資料を引用しながら、書面で詳細に指摘しました。
あわせて、相手方保険会社の主張を前提とした場合に、訴訟に移行すれば相手方が負うことになる立証上の負担や、紛争長期化のリスクについても指摘し、交渉による早期解決が双方にとって合理的であることを伝えました。

その後も複数回にわたり書面でのやりとりを重ね、相手方保険会社の個々の指摘に対して一つひとつ資料に基づいた反論を行いました。

本事例の結末
粘り強い交渉の結果、相手方保険会社は最終的に受傷の事実を争わない姿勢に転じ、本件事故とご依頼者の方の症状との因果関係を認めるに至りました。
そのうえで、通院期間および通院実日数を踏まえた入通院慰謝料について交渉を行い、最終的に慰謝料として50万円を獲得する内容で示談が成立しました。
当初は一切の支払いに応じないという姿勢であったことを踏まえると、受傷の事実を認めさせたうえで相応の賠償を得られた本件は、ご依頼者の方にとって大きな意味を持つ解決となりました。

本事例に学ぶこと
交通事故の中には、本件のように、相手方保険会社が怪我をしたという事実そのものを否認してくる事案があります。
特に、車両の損傷が軽微な事故では、「この程度の衝突で怪我をするはずがない」という主張がなされることが少なくありません。

しかし、車両の損傷の程度と乗員が受ける衝撃の大きさは必ずしも比例するものではなく、損傷が軽微であることだけを理由に受傷を否定することはできません。

こうした事案で鍵を握るのが、診療録をはじめとする医療記録です。事故からどれだけ早く受診したか、初診時にどのような訴えをしていたか、その後の症状の訴えに一貫性があるか、通院の実態が伴っているかといった事情が、受傷の事実を裏づける重要な材料となります。
したがって、痛みを感じた場合には我慢せずできる限り早く医療機関を受診し、症状を正確に医師に伝え、必要な通院を継続することが何よりも大切です。

また、保険会社から支払いを拒絶されたとしても、それが最終的な結論ではありません。保険会社の主張の一つひとつに対し、客観的な資料に基づいて具体的に反論していくことで、当初の判断が覆ることは十分にあり得ます。
本件も、資料を丁寧に読み込み、根拠を示して反論を積み重ねたことが結果につながりました。

相手方保険会社から不本意な対応を受けてお困りの際には、ご自身だけで抱え込まず、早い段階で弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

弁護士 遠藤 吏恭